神様と始める異世界ライフ
桜城カズマ
こういうのだよ、神様
「異世界転生って本当にあるんだなぁ……」
燦々と僕を照らす太陽を見て、流れてきた汗を拭う。
「けどさぁ……こう言うんじゃねぇんだよ……」
異世界転生と言ったら、魔力がめっちゃあるとか、剣の才能がすごいとか、顔がめっちゃかっこいいとか。色々あるじゃん。
「おらぁ!サボってんじゃねぇぞ!!」
「はいっ……!?」
工事現場に響く怒号に、僕は肩をビクッと動かす。
憧れていた異世界転生。けど魔力も剣才も顔も恵まれなかった。神様。
こう言うんじゃねぇんだよ。
何ももらえず、高校2年生のまま異世界に転生した僕は今、国と国を繋ぐ橋を作る仕事をしています。
めっちゃ下っ端で。
「うるさいわねっ!」
「……!?」
何処かから……いや具体的に空から女の子の声が聞こえた気がする。
けどこの工事現場に女の子なんていなかったはず。
「親方空から……?そんなことないか。神様は僕を裏切ったんだ……」
僕は頭をよぎった都合のいい妄想を断ち切って、すぐに作業に取り掛かる。
またドヤされたらたまったものじゃない。
作業に取りかかろうとした矢先、不意に地面が揺れ出した。地震かと思ったが、どうも僕が知っている地震の揺れとは違う。
日本育ちを舐めるな。
揺れの原因はすぐにわかった。橋先から大量に人が来ていたのだ。
「魔物だ!魔物が出たぞ!」
先頭を突っ走る男の叫びは僕の耳にも届いた。ありがとう、早速逃げるっ!
僕は逃げてきた人たちに背を向けて、彼らより先に助かろうと走り出す。
だが、それも許してはもらえなかった。
「ウゴオォォ!!」
ズドン、と大きな音を立てて僕の前に立ちはだかったのは巨大な戦斧を持ったミノタウロスだった。
鼻息を荒くして、今にも襲いかかってきますと言った様子だ。
「終わったー!」
どうしてこんな魔物が、なんて考えている余裕はなく。
「ウゴォォォォッ!」
戦斧は振り下ろされ、僕は2度目の死を迎えた。
ーーそう言う幻覚を見た。
無論、ミノタウロスは依然として目の前に立っている。
小便を漏らしていないのは奇跡に近いかもしれない。
僕は生きていた。なぜか?
ミノタウロスの振り下ろした斧が、僕に当たる前に何かに阻まれるようにして止まったからである。
「ウゴォ!?」
ミノタウロスは動揺して、必死に斧を僕に当てようとするが、全て無駄に終わる。
ミノタウロスが息を上げ、一度後ろに下がったその時、空からキラリ、と剣が落ちてきて地面に突き刺さった。
「……ーーこういうのだよこういうのっ!!」
僕は突き刺さった剣をすぐさま引き抜き、さっきまで僕をビビらせてくれた奴に向ける。
「愛してるぜ神様ぁ!」
僕はそう叫んで討つべき敵に向かって駆け出す。
不思議と体は動いた。不思議と剣は扱えた。
「オオォォォッ!」
ミノタウロスは向かってきた僕に対して斧を後ろに隠すように構える。
その動きを見て察した。奴は斧の間合いに入った僕を狙って殺すつもりだ。
「うおおぉっ!」
僕は構わずミノタウロスへ突っ込む。間合いに入った途端、ニヤリと笑って斧を薙いだ。
「そこぉっ!」
予想通りのミノタウロスの動きに少し驚きはしたものの、僕は勢いよく跳んで斧を躱し勢いそのまま剣で体を上下二つにしてやった。
「これがーー……力…っ!」
真っ二つにしてやったミノタウロスを見下ろして、僕は空を仰ぐ。
「こういうのだよ神様ぁ!」
「だからうるさいわねっ!」
「ごふっ!?」
僕の叫びに答えたのは、さっき空から聞こえた声と腹への強烈な一撃だった。
腹を抑えて悶絶している僕に、犯人は続ける。
「せっかくお望み通り異世界に転生させてあげたっていうのに、毎日毎日毎日毎日!神様神様うるさいのよっ!全部聞こえてんの!わかるっ!?」
僕を叱りつける声の主は、話から察するに神様らしい。
声の方向を見て女の子が立っているのはわかるものの、眩しくて全く顔が見えない。これが後光か…!?
「あの…眩しくて見えません…」
「あらっ?それはごめんなさい」
そう言って彼女は一歩下がる。
すると彼女から放たれていた眩しさは薄れ、姿形がはっきりと視認できる。
光が薄れてもなお太陽の光を反射し、眩しさを覚えさせる綺麗な金色の髪と、海を想起させるほどに青い瞳。
「私は神様。アナタを異世界に転生させた張本人。毎日毎日愚痴が聞こえてきて仕方がなかったわ。だからーー」
神様と名乗った彼女は、僕に手を差し出す。
「アナタに、とびっきりの異世界ライフを送らせてあげる」
僕はその手を握ると、神様は僕を引き寄せて続ける。
「さぁ、異世界転生俺TUEEE!を始めましょう?」
この日、僕は神様に出会った。
神様と始める異世界ライフ 桜城カズマ @sakurakaz
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