踏み込んで
たたん。たたん。たたん。
視点が切り替わる。放課後の学校の廊下から、教室を眺めている。ふと、窓に目をやると、隣町の有名なビルが見えて、意識がぐっと波を打ち寄せてきた。
―――ここ、白砂くんの小学校だ・・・
直感的に理解する。ならば、これは白砂くんの視点だ。白砂くんの思い出だ。私が触れることを許されなかった、彼が守りたかった記憶。
机と椅子を一組、廊下に運び出している担任。空いた机椅子の部分を前に押して、詰めていく学年主任。そんな彼らは、教室を遠くから眺めている俺には気づいていないようだった。
「高野美佳子にいじめられたから、ですよね・・・」
一人の若い女の先生、俺の担任がそう言う。
「そうだな・・・
「かわいそうに・・・」
担任が、いかにも残念そうな様子でそう返す。薄っぺらい悲しみなんて、いらない。あなたは何もしなかったのに。初花は、半分はお前のせいで転校するのに。
―――ふっざっけんな。
怒りで握りしめた拳がぶるぶる震え、中から何かが沸き起こってくる。そんなやり場のない怒りをどこにぶつければいいのか分からなかった。
二度とこんなことは起こってほしくない。もう、誰も俺の周りからいなくならないでほしい。初花のような、大切な人をもう二度と失いたくない。
そして、俺は願う。
もう、誰も同じ目に遭いませんように。
万が一、そんなことがあったら、その時は俺が救えますように。
教室や、机椅子、担任や学年主任の像が、徐々にほどけて、崩れていく。今の私には、この記憶以上のものに触れる自信がなかった。足は、いつの間にか止まっていて、像が完全に失われたころには、優しく輝く金星が目に映っていた。
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