2/4 ◇
――私、深月詩織が、なぜこの世界に呼ばれてしまったのか。
ずっと理解出来ないでいた。疑問だった。
全く、意味が分からなかった。
「主催者さん」
『……何かな』
「私を棄権させてください」
『無理だ』
逃げることは、許されないのだと知った。
――生き返りたいわけがない。未練があれば自殺してない。
第一、逃げたくて逃げたくて選んだ私の最後の最期の決意だったのに、それを後悔させるような。考えさせるような時間を、私に与えないで欲しい。
死ねば無になると信じていた。現実はまるで優しくない。
ゲームが始まり、シーカーを掛けた。私は赤色を持っているそうだ。争いごとに関わりたくなくて、家は郊外を選んだ。
殺し合いなんかまっぴらごめんだ。
参加なんてしたくなかった。
しばらくの間塞ぎ込んだ。主催者さんに棄権を求めたのもこの頃で、私はもっと落ち込んだ。
二回も死にたくなんかないよ。殺されるのなんて嫌だけど、殺すのだってしたくない。
人生は一度きり? 私もそう思っていた。
まさかこんな世界があるなんて思わないじゃんか。
どうすればいいのか分からない。胸が苦しい。
ご飯は味がしない。天国のように綺麗な世界なのに、どうしても、殺伐としてて優しくない。
地獄みたいな場所だと思った。ある意味、私が行くにはピッタリかもしれないと自嘲する。
……それを、否定してくれる人が欲しい人生でしたと、やっぱり後悔してしまう。
「貴方の色はなんですか?」
その始まりは自暴自棄から。
十分も話した頃には、この人は優しい、良い人なんだと思った。
彼も大して未練はないみたいだった。
色々話した。本当に楽しかった。私の家から街までのルート上で、デスゲームなのに釣りなんかをしていて、のほほんとしていて、なんだろうこの人って思ったけど、ぜんぜんまともな人だった。
会話が弾みすぎて、逆に命を狙われているのかなとドキドキした日もあったけど、彼は全然そんなこともなくて。
下の名前で呼んでくれた。
呼ばせてくれた。
もしも命を狙っていたら、酷い人だ。サイコパスだ。
だからきっと、本当に許してくれている。
色を明かしたことを、彼はものすごく叱ってくれた。優しく、私のために注意をしてくれた。
今となってはその通りだと思う。
日にちが経ち、殺し合いの実感を日々強めていく街の姿を見ると、絶対に出来ない行為だと我が身を振り返って恐ろしくなる。
最初で最後が彼で良かったと、本当に感謝している。
声が好きだ。横顔が素敵だ。口調が敬語でぶっきらぼうで、第一印象のような先生っぽさはやっぱりどこか感じられる。ここにはクラスメイトはいないから、思う存分甘えられる。
似合うメガネに変えてからは、ちょっと私の好きなキャラみたいでもどかしい気分になった。
楽しい、楽しい。
自分が生き生きとしているのを思う。
変なことをお願いしてしまった日もあった。彼の反応は煮え切らなかったけれど、あの人は絶対優しい人だ。そして、一人一人をちゃんと真剣に見てくれる。だからピッタリだと思う。
心の温かい人なのだ。余計に、こんな世界に呼ばれてしまって、可哀想だと思っちゃう。
この前はちょっと嫌なことも話してしまった。私の死因の話だ。
彼は顔色一つ変えることなく……ううん、顔色は変えていた。優しかった。同情してくれた。慰めてもくれた。受け入れてもくれたのに、やっぱり私は自分が恥ずかしい。ちょっと凹んだ。
嫌われたかと思って、次に会うのが怖くて泣いた。
でも私って、やっぱり不器用だから。人と話すのが好きなはずなのに、振り切りすぎて空回ることが多いから。不安で不安で仕方がなくて、でも冬馬さんと疎遠になっていく方が嫌で、勇気を出して、家へと行った。
川辺で待つのは心細くて嫌だった。
――山代って人がいた。
私には彼しかいないけど、彼には私以外にも友達がいるのかって、ちょっと悲しくなってしまった。
そう考えた自分が、まるで彼を縛ろうとしてるみたいで、そこもなんだか嫌だった。
でも、彼は別れ際に「この日の埋め合わせは必ずします」って言ってくれたから、それをちょっと楽しみにする。
結局その日はそれきりだったんだけど……。
次の日。お昼。
広場には騒がしい野次馬が一箇所に珍しく出来ていて、私はついついその中に混ざる。
冬馬さんとの話題になるかもと思ってだ。
集まってる場所は掲示板。
どうやら内容に問題があるみたい?
妙にジロジロとした視線がいくつも私に降りかかるのを、すごーく嫌な気分になりながらくぐり抜けて掲示板へ。
見て、そして、息が止まった。
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