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山代さんを家にあげると、彼はすぐにダイニングテーブルの椅子に腰を下ろして深く眉間に皺を刻みながら険しい顔で押し黙っていた。
その様子にぼくは多少悩みながらも、おずおずと話しかけることにする。
「……お茶でいいですか?」
「あ、ああ、ありがとう」
彼は何を考えているのだろうか。先程からどうやら様子がおかしい。
と、思うのだけれど、山代さんに聞いても答えてはくれないだろう。
リビングルーム。西洋建築の建物は土足の方が適しているみたいだけれど、生前の慣れのせいでどうしても玄関先に靴を置いて行ってしまう。山代さんにもそうしてもらい、初めての来客でもあったが、ゲスト用の食器は戸棚のなかに収められていた。
ぼくは慣れない準備をする。
「というかお前、お茶を買っているのか?」
「商店街にはよく行くので。安物ですがなかなかいい茶葉ですよ」
「剣崎は自炊もするのか……」
「してないんですか?」
「もったいないとは俺も思っているが、さすがに出来ていないな」
食器の類を始め、ポッドや電化製品的なものは初日からずっとどの住宅でも用意されていたはずだ。
料理をするとした場合、商店街で買うのは食材のみで出費がかなり抑えられるのだが、山代さんのように持ち腐れる人の方が多かったりもするのだろう。
会話が止まり、お茶を差し出す。
ぼくも対面に座り、やっと息をつくことが出来た。
山代さんは一口お茶を頂くと、少し迷ったようにした後、ぼくに質問をし始めた。
「……あの女の子とは仲がいいのか?」
「まあ、はい……言った通り、釣り仲間です」
「お前、もしかしてこの半月ずっと釣りでもしていたのか?」
「なかなかなスローライフでした」
「はっ、いいなそれ……。……なるほど」
また、会話が止まる。
少しして、再び山代さんは問うてくる。
「じゃあ、あの子も色を持っていないのかね?」
「……そうなんじゃないんですか? 毎日、よくあそこの川で釣りをしたりしていましたから」
「ほぉ……」
心臓が、妙にうるさい。
「お前みたいに、蘇生欲がないのか」
「かもしれないですね」
「お似合いだな」
壁にかけた時計の針が、妙に大きな音を立てて一秒一秒を数えている。
お茶を啜る。
喉が張り付きそうだ。
「色を、持っていないといいな」
「そうですね」
「持っていたら、巻き込まれちゃうもんな」
「……そうですね」
はぁああ、と、山代さんはここで深く深く息を吐いた。
その姿が、妙に印象的だった。
「――そうそう、さっきの話なんだが。お前は赤色の持ち主に心当たりあるか?」
「……いえ、ないですよ」
そして、ぼくは嘘をついた。
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