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――一日、一日。ポイントは、徐々にその数字を減らしている。
節制しても、物足りない。時間が経つほど、早く動いた人の方が有利に事が進んでいく。
街に降りると人通りは当初ほどなく、行き交う人の数々も雑多ではなくなっていた。
悲しいほどに疎らだった。
目を逸らしても流れるペナルティの報告。今まで見ないようにしていたが、ここ最近は数が多い。毎日人が減っている。
きっとみんな、追い詰められているのだろう。
主催者は現状にご満悦でもしているのでしょうか。考えるほど、気が病んでくるみたいだった。
そして、未だにぼくはこの世界での正解が出せないでいる。
「……山代さん」
「奇遇だな。お前、まだ生きていたのか」
ふと見覚えのある人影に、きっと彼は望んでいないはずなのにぼくはついつい声を掛ける。
彼は足を止めるとぼくの表情をまじまじ見ながら、握手を求めてくれた。
思い詰めた顔で手を繋ぎ、ふっと短く息を吐くと、とたんに友好的な態度を取る彼に違和感を隠せないで疑いの眼差しを持ってしまいながら。
「少し、話を聞いてもらってもいいですか」
「あー……俺も改めてお前に話したいことがあったんだ。立ち止まってると目立つから、安全な場所に移動したいが」
「良ければぼくの家に来ますか?」
「よし、それじゃあ案内してくれ。歩きながらでも少し話そう」
山代さんは初日の時とあまり変わらないままだった。ただ少しだけ、纏う雰囲気が一味変わっているようにも思え、時折別人のようにも錯覚してしまう。
二人で歩く。初日の面影が脳裏に掠め、この半月間での変わりように目眩がした。
「調子はどうだ?」
「それなりに。郊外の方でゲームが終わるまで、と思っていたんですが、最近は不安で……」
「まあ、見境ないやつも出てきてるからな」
人を殺せば一〇ポイントの加算。現状、どんどん人口が減っており、かつ手持ちのポイントすら半分を切った人が多いなか、さまざまな人の焦りが殺し合いを傍観するつもりだった色なしたちをもターゲットに見定めていく。
色の能力すら全開示がなされたのだ。所持者までは明かされていなくても、今まで存在を隠し通してきた慎重に動く色持ちだって、動き出していてもおかしくはない。
少なくとも、ペナルティをペナルティのように思う人は確実に減ってきていた。
「じゃあ、剣崎はまだ変わってないんだな」
「山代さんは……?」
「………」
「……仕方ない、ですよね」
咎めることは誰にも出来ない。
本意でやっている人もいない。
だからぼくは、それ以上山代さんに掛けられる言葉を持ち合わせてはいなかった。
「話したいことって?」
「ああ、その……例えばなんですけど」
少し躊躇いがあった。山代さんに話す内容ではないかもしれないと思ったけれど、でも詩織さんには言えなくて、彼くらいにしか打ち明けられる人も僕の周りにはいなかった。
「例えば自分が色を持っているとして、そのなかにはきっと、蘇生も望んでなく、戦いたくもないっていう方がもちろんいると思うんです」
「まあな?」
「命を奪い合わず取引出来る、譲渡があればと考えて、本日公開された白の能力はそれが可能になるんじゃないかと……」
「……何が言いたいんだ?」
「蘇生したい人だけがその奪い合いに参加するべきなんです。巻き込まれたくないので」
きっとそれは、焦燥感でもある。
半月が経ち、人の数が減り、殺伐とした空気が漂い、傍観者でも居続けられないこの世界に対してと。
……詩織さんのような方が、離脱出来る方法があればいいな、と。
これは、勝手なお節介ですが。
「……………お前には関係なくないか?」
「……え?」
小首を傾げ、ぼそりと呟くような山代さんにぼくは思わず聞き返すと、彼はすぐに「なんでもない」と口が滑ったみたいにする。続いて柄にもなくハハハと笑いながらぼくの肩に手を回して、妙に触れてくる山代さんに、やはりなにか、違和感を覚えてしまいながら。
「まあ、その……剣崎は、この世界の本質が見えていないんだな」
「……なかなか言いますね」
「痛いところを突かれたように思うなら、お前は理想を見過ぎだよ。本当に」
「すみません……」
「だってそうだろう? お前の言う、白の持ち主が話の通じる人間とは限らない。それに、色持ち同士がそのやり取りを静観するとも限らない。白が一人勝ちするとしたら、今度は白の奪い合いになる。漁夫の利だって掠め取ろうとするやつが、出てくるかも知れないんだ」
「……そう、ですね……。ごもっともです」
「謝ることじゃないが……。甘すぎるぞ」
山代さんは蘇生を望んでいる。そしてたぶんきっと、彼は色を持っている。
だから少し、この理想論は軽率すぎたかなとも思うけれど、ハッキリとぼくの気の迷いを両断してくれる山代さんに、少なくとも話してみて良かったなとは感じている。
「実はな……」
と、次は山代さんの話を聞かせてもらえた。
「俺は、改めてお前に協力してくれないかと相談しようと思っていたんだ」
「そうなんですか?」
「同盟というのがあってな。樋笠練ってのがいるだろう、広場の。あいつはやばい。全員がそう思っている。だから水面下で、利害関係の一致から色持ちも色なしも問わず結託することにしたんだ。一時的に」
「そんなことが起きていたんですね……」
「実際、奴が一番ゲームクリアに近い量の色を持っているんじゃないかと言われている。だから俺たち同盟は、いずれ崩壊するものだと理解しながら奴を落とすために協力している」
「……なんと言いますか」
「お前が言いたいことも分かる」
一位を蹴落とすために協力する。敵同士であるはずなのに、抜け駆けは許さんとばかりに。
それが正しいわけがなく、残酷なほどにフェアではなく、これが生存競争であることを実感して……ぼくは苦い顔をする。
「俺が剣崎を誘おうと思っていたのは、その、一番信頼出来るからだ」
「………」
「気が変わったかもと思っていたが、今日話した感じ、そんな様子もないと思ってな」
「気ですか?」
「ああ、その……言ってはなんだが、生き返りたいやつとは協力出来ないだろ?」
その言葉は、あまり嬉しいと感じなかった。でも山代さんの持つロジカルには沿っている気がして、だからこそ言葉にしてくれたみたいに、信頼されているのはありがたい気持ちもあった。
「なにも殺し合いに参加はしなくていい。お前には参謀役というか、俺のサポートをお願いしたい。同盟は協力関係だが、お互いの牽制も激しくてな。背中を預けられるやつが……お前だと、俺は思っている」
その言葉は、真実だ。
彼に隠しごとがあるのは分かる。先ほどから感じる違和感も、きっと山代さんが何かしているんだろうなとは思う。
ですが、それは、彼が生き返りたいからでもある。
だからこの言葉には違和感を覚えないし、きっと本当に、そう思ってくれているのだろう。
「まあ、答えは急がなくていい」
「ありがとうございます……」
すぐには答えられずに押し黙るぼくを、そう気遣って言ってくれる山代さんに素直に保留であることを述べる。
ぼくは一つ深呼吸した。
「――そうだ、今日、全部の色が公開されただろう」
山代さんは、話題に困ったようにして、ふとそんなふうに切り出した。
「赤色が欲しい」
「……え……?」
ぼくは大きく目を見開く。
「アレがあれば、樋笠練を楽に殺せる」
――樋笠練の持つ灰色と。
詩織さんが持つ赤色は。
あまりにも、相性が良すぎていた。
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