あこがれの女教師は娼婦(その46)

新宿中央公園には、アオカンをするカップルを盗撮するカメラマンがたくさんいて、彼らの高揚した性欲の処理をするホームレスのお助け婆がいることをあなたは知っていた。

・・・あるいは、前夜にひとりで出かけて公園の地形とすべての登場人物の配置を予習したのかもしれない。

勉強ができるあなたは、予習の大事さをよく知っている。

あの夜、あなたは不意にトイレに行くと言って持ち場を離れた。

その間に、カメラマンは殴り倒され、ホームレスの若いお助けウーマンは惨殺された。

森本くんの扮装をしたあなたは、木立の暗闇の中に背中だけ見せて消え、私がホームレスに取り囲まれている間に、何食わぬ顔でもどっていた。

『森本くんに新宿中央公園の覗きの話をしたか』をたずねると、あなたはしたと答えた。

ここでも、森本くんに注意を向けさせるように振る舞ったのでしょう。


ふたりで出かけて、いざという時に途中でいなくなるパターンは吉原のマキシムでも同じです。

マキシムは小さな公園の前の角地にあり、隣が大きな駐車場で、他のソープ店から独立した建物の立地で、犯罪を起こすのに都合がよかったのです。

あるいは、あなたは以前にこの店に客として入ったことがあり、内部の構造もよく知ってのかも知れません。

あの日の夕方にマキシムの下見をして、11時に公園で会うことにしたので、時間はたっぷりありました。

あなたは、ワゴン車を盗み、家出系サイトで知り合った家出少女を車に乗せて殺して車の後ろに積み、マキシムの近くの駐車場に運んでおいたのです。

高校生にそんなことができるかって?

犯罪情報に詳しく、知能の高いあなたはどんなことでもできるのです。

マキシムが12時ちょうどに閉まって最後の客が送迎車で送られたあと、あなたはやはり持ち場を離れました。

マキシムの送迎車が抜けたあとの駐車場のスペースにワゴン車を入れ、死体を裏の従業員の出入口の前に女の子の死体を放置したまでは計画通りでした。

が、帰り支度をしたソープ嬢が予想よりも早く死体を見つけて悲鳴をあげました。

それで駆けつけた私とガチに出くわしたあなたは、逃げ場を失い、隠し持っていたナイフでとっさに私を刺したのです。

よそで殺した死体を運んでくるやり方は、明らかに今までとはちがいます。

アメリカに旅立ってから1週間ほど過ぎていたので、マキシムの殺人の犯人は森本くんではありません。

娼婦を猟奇的に殺すあなたの快楽は、歯止めが利かなくなったのでしょうか?

いえ、・・・私は、これを犯人の驕りと見ました。

知性にすぐれた犯人は、森本くんを犯人と見立てて証拠を集めているであろう警察に、模倣犯が大勢いると見せかけて、『さあ、無能な警察ども、俺を捕まえてみろ』と挑発したのです。

同級生だか同窓生の模倣犯の候補が大勢いることを、あなたはさかんに私に吹き込みました。


・・・どうした訳か、この猟奇的連続殺人事件は、マキシムの殺人でいったん終止します。

おそらく、犯人は受験勉強に没頭しなければならなくなったからでしょう。

大学に入った犯人は、サイコパスにはならず、アカデミックな研究者の道を歩みはじめました。

・・・猟奇的な殺人に興味を失い、あなたのリビドーは、知的な探求心に向かったのです。

ちがいますか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る