あこがれの女教師は娼婦(その43)

エリカに、森本自殺のことと、再びD坂で猟奇的殺人があったことをメールすると、数日して、『森本の自殺には驚いたが、つい昨日、カリフォルニアの連続射殺魔がロス郊外のモーテルでおとり捜査によって逮捕された』と返事があった。

『35歳の白人の男は、犯行に使われたサイレンサー付きの拳銃を所持していて、過去に売春婦に性病をうつされたオブセッションにとらわれて、殺人を重ねたと自白した』とも書いていた。

・・・森本は、カリフォルニアの連続射殺魔ではなかった。

森本は、日本にもどってからサイレンサー付きの拳銃を手に入れ、D坂のレンタルルームでデリヘルの女を殺し、同じ拳銃で成田のホテルのトイレで自殺した。

・・・そう思うしかなかった。


「D坂のレンタルルームのデリヘルの女の射殺と森本が自殺に使った拳銃は同じだった。それぞれの弾丸の線条痕が一致した」

数日後、犯罪ネットの情報を伝えると、

「ますます怪しいです」

と可不可は首を振った。

「何が?」

「森本氏がカリフォルニアの連続射殺魔だと思い込み、同じようなサイレンサー付きの拳銃を手に入れ、森本氏がその拳銃でD坂のレンタルルームで女性を殺し、同じ拳銃で自殺したように見せかけて森本氏を殺したひとがいます」

「・・・ちょっと待ってくれ。どうしてそんなことを思いつく」

「どうしても、森本氏を東京とカリフォルニアの連続殺人事件の犯人にしたいひとがいるからです」

「カリフォルニアの連続殺人は、森本の仕業ではないことが分かったが、東京の連続殺人も森本ではないと言うのか?」

「はい」

頭が混乱してきた。

「森本氏が自殺ではなく他殺と分かった以上は、そう考えるしかありません」

「他殺はどうかな」

「川崎さんをじぶんに譲れと迫った時、どうして森本氏は拳銃であなたを脅さなかったのです。その前に、川崎さんをチェックインカウンターからホテルに連れ込みコネクティングルームに監禁した時も拳銃を使わなかった。使わなかったのではなく、・・・持っていなかったのです」

たしかに、森本も何らかのオブセッションにとらえられて見境なくひとを殺す男なら、エリカもじぶんも殺してから自殺しそうなものだが、そうはしなかった。

「でも、エリカは従順についていった・・・」

「それは、森本氏を日本とアメリカに渡る連続射殺魔と恐れたからです。それに、自殺するひとはトイレの個室に鍵はかけません」

「さあ、それはどうかな・・・」

これには自信がなかったが、いちおう反論した。

「森本氏がホテルに何時にチェックインしたか調べてください。相当早い時間にチェックインして空港カウンターで待ち伏せしていたと思われます」

「でも、D坂で脇坂をまいたあと、レンタルルームでデリヘルの女を殺してから空港にやって来た」

「おそらく森本氏はD坂には行ってないでしょう」

「何だって?・・・脇坂はD坂でまかれてと言っていた」

「ああ、それは、意図的に嘘を言う・・・」

「狂言だと言うのか?」

「はい、その狂言です。脇坂氏は、森本氏が成田方面へ向かうのを確かめてから、D坂へ向かいました」

『この犬は狂っている』

と思った。

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