あこがれの女教師は娼婦(その42)

可不可との話を中断して、ネットを立ち上げた。

考えてみれば、警察の事情聴取を受けて家にもどってから、一度もネットをチェックしていなかった。

一般ネットニュースでは、『米国の大学に留学中の森本和也さん(22)が里帰り中に空港隣接のホテルで自殺』と一行で報じていた。

犯罪ネットでは、『成田のホテルのスイートでのミニ同級会が終わったあと、ひとりになった森本和也さん(22)がトイレの個室で拳銃自殺をした。拳銃の発射音は隣の部屋では聞こえなかった。警察は家族と元同級生に事情を聞いている』とあった。

溺死とは書いてなかった。

森本は、便器に貯めた水など一滴も飲まずに、拳銃自殺して便器に頭を突っ込んだのだろう。

「最新のニュースだとやはり自殺だね」

と可不可にノートPCの画面を見せると、可不可は静かに首を振った。

「字が読めないのか?」

そうたずねると、可不可はちょっぴり恥ずかしそうに、

「ええ、まだ小学生レベルです。でも、自己学習装置がありますので、すぐに追いつきます」

と、あからさまな言い訳を言った。


犯罪ネットをさらに遡ると、・・・驚くべきニュースが見つかった。

『日曜日の午後、D坂のレンタルルームで、長身に黒いトレンチコートに大きなサングラスに黒マスクの男が、呼び寄せたデリヘルの女を射殺して姿を消した。女の下半身はいたずらされていた』

と報じている記事で、森本の犯行では?と直感した。

他の犯罪ネットを追うと、レンタルルームの受付の女は拳銃の発射音は聞いていないと証言していた。

・・・おそらく、拳銃はサイレンサー付きだろう。

「いたずら」の詳細は書いてなかったが、だいたいの予測はついた。

脇坂が見失ったあと、森本はD坂のレンタルルームに呼んだデリヘルの女を射殺して成田へ向かった?

・・・とすれば、大胆な犯行だ。


「これを森本氏の犯行と断定するのは早すぎます」

可不可は首を振った。

「森本が行くところ、同じような犯罪が必ず起こる。どうにもリビドーが抑えられない奴なんだ」

可不可はリビドーについては何もたずねなかったが、

「ともかく、森本氏の自殺には謎が多すぎます」

と、きりりとした顔で言った。

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