あこがれの女教師は娼婦(その39)

空港の地下駐車場からBMWを引き出して高速道路をひた走ると、夕日を背にした高層ビルの影が目の前に迫って来た。

結局、丸一日近く警察署で取り調べを受けたことになる。

無罪放免ということではなかったが、たぶん重要参考人として記録されただろう。

脇坂がホテルの部屋にいたことは話さなかったが、ホテルの防犯カメラをチェックすれば、脇坂が部屋を出入りしていたのはすぐに分かるはずだ。

再び呼び出されて追及されれば、遅かれ早かれ脇坂のことを言わざるをえない。

もはや、こちらから脇坂に連絡する気にはなれなかった。

『居なかったことにしてくれ』

と頼まれたので警察には話さなかったが、自殺のいきさつを知っている脇坂は、かっての盟友の森本を見捨てて逃げた。

勝手に唯一の友人でライバルと思っていた脇坂とは、これで終わった。


エリカの両親のクリニックの駐車場に車を入れると、すかさず母親が玄関から飛び出して来た。

エリカが無事にニューヨークに出発したあと、見送りに来た森本がホテルの部屋で自殺したとのみ伝えた。

すでにそのことは知っている母親は、詳しいいきさつを聞きたがったが、

「警察にその辺のことは話すなと言われています」

とかわし、隣のじぶんのオンボロ車に乗り換えて、逃げるようにして母親の前から立ち去った。


車をバックで車庫に入れる時に、奥の物置に思い切りぶっつけてしまった。

車を前にもどすと、物置の扉が反動で半開きになった。

ふと物置の中を見ると、奥に積み上げた段ボールの一番下の木箱の隙間から赤い光が明滅しているのに気がついた。

段ボールを横に下し、木箱を取り出して蓋の釘をバールで抜き、スポンジのクッションを取り除くと、ビニールに包まれた物体が現れた。

その物体からは、絶え間なく赤いビーコンが発光していた。

木箱を解体すると、ビニールに包まれた物体は中型犬のぬいぐるみと分かった。

ズシリと重い犬を抱きかかえて玄関に入ると、ちょうど母親が居間から這い出てくるのと出くわした。

「そ、それは・・・」

母親は、不自由な口を動かして何事かを話そうとした。

居間にぬいぐるみを置いて、時間をかけて話を聞き取ると、

『これは、父親がロボット研究所を退職してから秘密裏に自主開発した警察犬と軍用犬を兼用するアンドロイド犬だろう。試作機が完成しているとは知らなかった。せっかく完成したのだから、お父さんの遺作として活用しなければならない』

と、おおよそそんな内容のことを口にした。

鍵を借りて、父親が亡くなってから封鎖してあった研究室に入り、膨大な設計図のファイルの中からマニュアルらしきものを探し出した。

まず尻尾の下にコードを差し込んで充電をし、首輪の下の差込口からLANケーブルでインターネットに接続したが、部屋の明かりを点けたまま寝落ちしてしまった。

ところが、

「こんばんは、裕史さん」

と呼びかける声で、真夜中に目が醒めることになった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る