あこがれの女教師は娼婦(その38)

マネージャーが警察に電話している間に逃げようとして、いったんは出口に向かいかけたが、逃げられなかった。

ひとがひとり死んだのだ。

しかも、元同級生が・・・。

トイレにもどって便器をもう一度見た。

便器の排水口にタオルで詰まっていて、絶え間なくあふれ出る水が縁を伝って滴り落ちていた。

水の底にサイレンサー付きの拳銃が見えた。

仰向けに転がる森本の遺体を屈み込んでよく見ると、顎が破壊されていた。

森本はトイレの水が流れ続けるように細工をして、便器に膝まづいて拳銃を喉に突っ込んで発射した。

彼の頭はそのまま便器の水の中へ拳銃もろとも落ちた・・・。

しかもトイレの扉は内側から鍵がかかっていた。

・・・これは明らかに自殺だ。

お清めだか贖罪だかの儀式めいた奇妙な自殺。

『ここには寄らずに帰ってくれ』

『警察には何も言うな』

つい先ほど、携帯でそう言った脇坂は、何を見たのだろう?

何かを見たからあわてて逃げたにちがいない・・・。

自殺する森本を幇助した?

そもそも、反省や懺悔に縁のない森本が自殺をするなど、考えも及ばなかった。

窓から下を見下ろすと、赤い非常灯を回したパトカーと救急車が列を連ねてやってくるのが見えた。

大勢の警官が、間もなくこの部屋に押しかけて来るはずだ。


・・・取り調べは過酷だった。

4年前の美祢子先生殺しから、森本のこととを洗いざらい話した。

エリカと脇坂のことは巧妙に隠したつもりだが、エリカに執着してきた森本がホテルでプロポーズして振られたことだけは話さざるをえなかった。

やっと取り調べから解放され、もどされた携帯をチェックすると、母親からも脇坂からの電話の履歴は残っていなかった。

唯一残されたエリカの母親からの電話の履歴を見て、空港の地下駐車場に借りたBMWを駐車していたことをやっと思い出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る