あこがれの女教師は娼婦(その37)

脇坂が、「警察に言わないでくれ」と言ったのが気になった。

ともかくホテルの12階の部屋へもどって、チャイムを鳴らすと、すぐに扉は開いて中へ引き込まれた。

「あなたは?」

ダークスーツを着た中年の男が、頭のてっぺんからスニーカーの先まで二度見てからたずねた。

胸のプレートで、ここのホテルのマネージャーと分かった。

「このスイートを借りた森本という男の友人です。ついさっきまでここにいて、もうひとりの友人を空港に見送りに行ってもどったところです」

と答えると、マネージャーはうなずき、

「では、その森本さんはどこへ行かれたのでしょうか?お約束のチェックアウトタイムになったので部屋にお電話したのですが、お出にならないものですから・・・」

と辺りを見回した。

「ここで待っているはずですが・・・」

脇坂のスタンガンでソファーに倒れた森本の巨体を思い浮かべたが、ソファーには影も形もなかった。

開けっ放しのコネクティングルームを見回していると、

「ああ、おられました」

バスルームからマネージャーの声がした。

洗面所の右手のトイレを指差し、

「森本さま」

と呼びかけてマネージャーが扉を叩いたが応答がない。

微かに水の流れる音がして、ドアの下の隙間から水が滲み出ていた。

ノブを引いたが、内鍵がかかっているのか、いっかな開かない。

部屋のライティングテーブルの椅子を持ち出し、トイレの扉に立てかけて扉の上の隙間から中を覗きこんだマネージャーが、

「大変です!」

と一声叫んで椅子から飛び降り、部屋の電話にとりついて何やら指示を飛ばしはじめた。

その間、椅子に飛び乗り、同じように扉の上部の隙間から薄暗いトイレの中を見下した。

シャツ姿の大きな男が四つん這いになって便器の中に頭を突っ込んでいた。

便器の縁と頭の隙間には水があふれ、あふれた水がタイルの床に滴っていた。

「森本」

と呼びかけたが応えることはなかった。

とって返したマネージャーが、ホテル案内のパンフレットを扉と壁の隙間に差し込んで跳ね上げるとトイレの内鍵は外れて、扉は開いた。

マネージャーとふたりで、四つん這いになった森本の巨体を抱き起して便器から引き剥がし、水浸しの床に横たえたが、すでに息は絶えていた。

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