あこがれの女教師は娼婦(その36)


ようやく、エリカを部屋から連れ出してエレベータに乗せ、ロビーに降りて小走りで空港へもどった。

場内のスピーカーが、エリカの名前をニューヨーク行き最終搭乗案内の乗客としてコールしていた。

カウンターにたどり着くと、待機していた地上乗務員が、

「お急ぎください」

と先に立って小走りで先導した。

搭乗口までやって来て安心したのか、エリカは振り向いて、

「森本くん変ね。監禁して手錠まで掛けて殺すのかと思ったら、いきなりプロポーズでしょ」

「君が好きなひとって、ニューヨークの医科大学の司法医を目指す同級生のこと?」

ちょっぴり胸をはずませてたずねると、

「いえ。私が恋したのは、イエスさま」

と真顔で答えた。

「イエスさまって、・・・あのイエス・キリスト?」

「ええ、あのイエス・キリスト。私のこれからの人生は、イエスさまのお命じになられたミッションを果たすこと」

それを聞いて、一気に肩の力が抜けた。

「でも、森本くん、真顔で美祢子先生も誰も殺してないと言ったわね」

「ああ、ホテルにもどったら脇坂とふたりで森本の言い分を聞いてみる。その答えをメールで送るよ」

ふたりはうなずいて見つめ合い、

「では」

「では」

と同じことばを口にして、別れた。

搭乗口に消える時、エリカは振り向き、にっこりと笑った。


空港を出てホテルへ向かおうとすると、脇坂から電話があった。

「やばいことになった」

「どうした」

「とにかくやばいことになった。こっちには来ないで、そのまま帰ってくれ。俺も今から帰る。警察には何を聞かれても、今夜俺たちがここで会ったことはくれぐれも内密にしてくれ。いいね」

脇坂が一方的にまくしたて、電話は切れた。

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