あこがれの女教師は娼婦(その35)
森本はスイートを借りたようで、ノックする音はネクティングルームの扉の向こう側でしていた。
脇坂が、素早く駆け寄って扉の錠を外した。
開いた扉の隙間から、エリカが両腕に嵌められた手錠を突き出した。
あわてた森本が、巨体を揺すって駆け寄り、手錠を外した。
「こんな監禁じみたことをしておいて、プロポーズとはね・・・」
脇坂が呆れた声でいった。
「どうして、人殺しがプロポーズなんかできるわけ」
戸口に立ったエリカの声は怒りに震えていた。
「人殺しだって。・・・俺が人殺しだって?」
森本が、オランウータンのように両手を振り回して喚いた。
「D坂で美祢子先生を殺したでしょう!」
腕組みしたエリカが昂然と言い放った。
「俺はやってない!」
大きな両手をエリカの前に突き出した森本は、泣かんばかりに訴えた。
「でも、私はあなたと美祢子先生がホテルに入るのを見た。これ見よがしに、先生をホテルに誘ったのよ」
「ああ、そうだよ。・・・君と東條が俺のあとをつけているのは知っていた。たしかに先生とホテルには入った。だが、殺してはいない!」
「ホテルの従業員が、ひとりで先に部屋から出るのを確認している。モニターにも映っている」
脇坂が横から口を挟んだ。
「でも、俺は殺ってない!」
「では、どうやってそれを証明する」
執拗な脇坂の追求に、
「殺ってないのが、何よりの証拠だ」
とてもカリフォルニアの弁護士の資格を取ろうとする男には思えないような、森本の錯乱ぶりだった。
「ちょっと待てよ。脇坂、先生を買えとそそのかしたのはお前ではないか・・・」
「何を馬鹿な!・・・美祢子先生だけではない。歌舞伎町でも新宿中央公園でも、お前は売春婦を殺した」
「俺は殺ってない!どこでも、・・・誰ひとり、殺ってない!」
「東條、川崎さんを飛行機に乗せてやってくれ。あとで、3人で酒でも飲みながら森本の言い分をゆっくり聞こうではないか」
森本の肩をぽんと叩いて横にずらし、脇坂がエリカのために道を開けた。
部屋を出ようとするエリカを、森本がなおも抱き止めようとしたので、脇坂ともみ合いになった。
脇坂が、内ポケットからスタンガンを取り出して森本の首に当てたので、森本はへなへなとソファーに崩れ落ちた。
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