あこがれの女教師は娼婦(その34)
ホテルのロビーに入ると、いきなり脇坂が駆け寄って来たのには驚いた。
「森本にまかれたが、結局は川崎さんの帰りの便を知っていれば、成田のチェックインカウンターに現れる彼女に接触するはずだと思ってね」
森本が教えた12階目指してエレベータに乗りながら、どうして電話しなかったのか詰問すると、
「カウンターに君の姿がなかったので、とっくに帰ったかと思った。それに、チェックインした川崎さんに森本が近寄って来て、外に連れ出したので、あとをつけるのがせいいっぱいで・・・」
と言い訳を言った。
『まかれたけど、じぶんも成田へ向かう』
と、都内から一報しなかったのが脇坂らしくないと思ったが、今はそれを言う時ではない。
12階のエレベータホールを左に折れたすぐがその部屋だった。
チャイムを鳴らすとしばらくして、顔もからだも大きな森本が立ち塞がるようにして扉を開けた。
さほど広くないく部屋の中ほどに巨大な森本はひとりで立った。
森本は、脇坂もいっしょだったので眉をひそめて露骨に嫌な顔をした。
「川崎くんは?」
たずねると、
「今は、ここにはいない」
森本は答えた。
「では、どこにいる」
とたずねたが、それには答えず、
「東條くんと話し合いたい」
と睨むように言った。
「それはいいが、川崎くんをニューヨークに出発させてからなら、いくらでも話し合える。フライトまであと45分だ。そろそろ搭乗口に向かわなければ乗り遅れる」
「よし、話は簡単だ。・・・川崎さんから手を引け」
どうにもナンセンスな要求が森本の口を衝いて出た。
笑うしかなかった。
だが、ここで笑ったら、おそらく森本は激高するだろう。
「・・・ものの初めから、われわれには恋愛感情などはない。現に、この4年間会ったこともないし、手紙の一本もメールの一行もやりとりしたことはない」
「嘘だ。さっき彼女にプロポーズしたら、『好きな男がいるので』と断られた」
これは驚くべき行動だった。
「・・・それは彼女の嘘だ。断る方便だ」
「いや、彼女の思い人は東條だ。まちがいない」
この男は頭が狂っているとしか思えなかった。
「彼女が、君のプロポーズを断ったとしたら、それでこの話は終わった。俺には関係ない。さあ、彼女を返してくれ・・・」
「まるで駄々っ子だな」
背後から脇坂が嘲笑うように言った。
「なんだとう。お前にそんなことは言われたくない」
高校時代のふたりの子弟のような親密な関係を知っているので、森本のこの態度には正直驚いた。
その時、隣の部屋の扉を叩く音がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます