あこがれの女教師は娼婦(その27)

「カリフォルニアから?」

「ええ。何度もニューヨークの大学にやって来たけど、完全にシャットアウトしてやった。学生寮の住所や携帯電話番号を知ろうと実家にもコンタクトしたらしいけど、撥ねつけるようにしておいた」

森本は、エリカの永遠の招かざる客だった。

「でも、脇坂さんと東條くんだけはOKだった。脇坂さんはコンタクトして来たけど、あなたは・・・」

エリカは軽くにらみつけた。

「・・・同級生のだれかが、この3月の同級会に君が帰国すると森本に教えたんだろうね。それで彼はやって来た。そこまでして君に会ってどうしようと?」

エリカは小首を傾げたが、それには答えず、

「東條くん、探偵小説とか推理小説に詳しかったわね。アメリカでも異常な連続殺人が話題になっているのを知っている?」

と声をひそめてたずねた。

「いや、それほど詳しくはない。まして、アメリカのことなど・・・」

と首を振ると、

「NYPDの司法医を目指す同級生が、異常殺人に興味があって、全米の異常殺人データを集めているの。カリフォルニアで、モーテルに呼んだ娼婦を下半身だけむき出しにして殺し、性器をナイフで切り裂く殺人鬼がいると彼が教えてくれた。ここ4年で数件も・・・」

さすがにエリカも医学生だけあって、声こそひそめているが、殺人とか娼婦とか性器とかいうことばを何のてらいもなく口にした。

「ここ4年間、日本では美祢子先生が殺されたような残忍な連続殺人事件は起こっていない。ところが逆に、同じような殺人事件がカリフォルニアで起こった。・・・それは、ある人物が4年前に日本を去り、カリフォルニアに移ったから?」

ふたりは顔を見合わせて小さくうなずいた。

「ただ、最初の美祢子先生の時だけ明らかに目撃者がいた。・・・いや、わざと見せつけたかったのかもしれない」

「でも、どうして?」

「さあ、それは・・・」

その先は言えなかった。

「今さら私に会ってどうしようというの?・・・口封じのために殺す?」

「・・・・・」

「森本くんも美祢子先生に恋をしていて、先生が娼婦と知ってショックを受けた。それで、先生を罰したいと思った。でも、一方では先生を犯したいという抑えがたいリビドーもあった。・・・それであんな事件を」

エリカが、心理学の用語を口にしたのには驚いたが、

『じぶんも金があれば先生を買ったかもしれない。森本にはいくらでも使える親の金があった。だが、じぶんにはリビドーしかなかった。違いはそれだけだった。いや、じぶんは先生を罰しようなどとは思ってはいなかった。・・・断じて』

そんな思いがぐるぐると頭の中を回っていた。

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