あこがれの女教師は娼婦(その25)
脇坂は有名国立大学へ進んだ。
専攻は文学と哲学だそうだ。
じぶんは、受験勉強など全くせずに、私大の文学部の英米文学専攻に進学した
入学したての4月に父親が庭で首吊り自殺をした。
通夜の席で、今度は母親が脳溢血で倒れた。
それで、せっかく入学した大学にほとんど通学せず、昼夜逆転の4年間の引きこもり生活がはじまった・・・。
ふつうなら大学を卒業するはずの4年後の3月に、高校の同級会開催の通知のはがきが届いた。
社会人になる前に、学生生活最後の会食をしようと幹事の脇坂の挨拶文にあった。
・・・おめおめと高校の同級会などに出られようか?
「川崎くんが、このためにニューヨークからもどって来てくれる。ぜひとも参加してほしい」
脇坂の添え書きに気持ちがぐらついた。
理由もなくただエリカに会いたかった。
・・・だが、じぶんのみすぼらしい姿に気後れした。
伸び放題の髪の毛は適当な長さに切り落として頭の後ろで輪ゴムで結び、無精髭はきれいさっぱり剃った。
ただし、着るものがなかった。
よれよれの高校時代のスタジャンではどうにもならないので、亡くなった父親の紺のブレザーを拝借し、ジーンズとうす汚れたスニーカーで自転車に乗って出かけた。
とりあえず母校の3年時の教室にいったん集まり、そこから駅前のイタリアンレストランでの懇親会へ向かう手はずだった。
しかし、いざ出発となるとペダルを踏む足は重くて自転車は思うように進まず、約束の集合時間よりだいぶ遅れて母校に着いた。
「やあ」
教室の前で待っていた脇坂は、いつものようにぶっきら棒なことばを投げつけた。
この4年間、太陽の光などひとかけらも浴びたことがないような白い額に、黒い前髪を長く垂らしていた。
教室に入ると、机が肩寄せられでできた空間に、十数人の同級生たちの輪ができていた。
その輪の中で、質素な紺のスーツに白いブラウス姿のエリカは、とりすましてわざと大人っぽくふるまっていた高校時代とまるでちがい、まばゆく輝いていた。
「東條くん!」
と叫んで駆け寄ってくるさまは、無邪気な少女のようだった。
何が彼女を変えたのか?
・・・それが不思議だ。
十数名の同級生たちは、そのまま校舎を出て駅前へ向かった。
その集団から少し遅れがちになりながら、自転車を押しながらエリカと並んで歩いた。
エリカにいろいろなことをたずねたかった。
だが、ニューヨークの医科大学生のエリカの晴れやかな笑顔に気後れして、喉がひりついて何のことばも出てこない。
脇坂が、後ろを気にしながら振り返るでもなく、ひとりで少し前を歩いていた。
先に駅前のレストランに入った同級生が、
「森本くんがいる!」
と叫んだのを聞いて、エリカと脇坂と3人で思わず顔を見合わせた。
たしかに、奥に設えられたテーブル席の中央に、太い葉巻をくゆらせる森本が悠然と座っていた。
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