あこがれの女教師は娼婦(その24)

ほどなくして、教室にもどったが、脇坂も含めてクラスメートは無関心だった。

受験勉強にドライブがかかっていたので、もはや放課後に賛美者たちが脇坂の周りに集まることはなかった。

駅前の喫茶店に誘って、エリカがD坂にやって来たほんとうの理由は話さずに、美祢子先生とホテルに入った若い男は、森本でまちがいないと返事があったとのみ伝えた。

「川崎くんは、警察にそれを話さなかったのを後悔しているようだ。何なら今からでも警察に言うべきか悩んでいるようだ」

エリカをかばうような言い方になったが、

「最近の警察は、『私が殺しました』と出頭しても、物的証拠が揃わなければ簡単に逮捕はしない。まして、高校生が教師とホテルに入るのを見たと高校生が証言したところで、どこまで信用するのやら」

脇坂は自信たっぷりに答えたが、そこにはエリカをかばうようなニュアンスもあった。

「そんなもんかなあ」

「ああ、そんなもんだ」

「森本が美祢子先生とホテルに入ったのはまちがいないとして、殺したのはやはり森本でいいのかな」

「いっしょにチェックインするのも、森本ひとりで出るのもホテルの従業員が確認しているし、ホールとエントランスの防犯カメラにも映っているはずだ。そこは鉄板だろう」

「では、歌舞伎町のホテルでの第二の殺人はどうかな?」

「君あてに殺人予告があって、森本に似た若い男がホテルの部屋でデリヘル嬢を殺して立ち去った。森本がやったのか、模倣犯の同級生がやったのかそれは分からない。第三の新宿中央公園のホームレスの若い女を殺した事件では、襲われたカメラマンも、君も逃げ去る男を見た」

「暗かったし、背中しか見えなかった。果たしてあれは森本だったのだろうか?模倣犯だとしても極めてわれわれの近くにいる人間だとだけは言えるよね」

「第四の吉原の事件は、森本ではないということははっきりしている」

「ああ、そうだね。でも、模倣犯かどうかは分からない」

「証拠隠滅のための、仕組まれた殺人のような気もする・・・」

脇坂は独り言のようにつぶやいた。

「証拠隠滅だって?」

腕組みした脇坂は、それには答えず、長い時間考え続けていた。


・・・その後、殺人予告の脅迫状が届くことはなかった。

似たような猟奇的殺人事件が起こることもなかった。

じぶんのまわりでは、大学受験に向けて怒涛のように時間は流れていった。

・・・川の流れに取り残された杭のように、ひとりぽつんと流れの中にたたずんでいるしかなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る