あこがれの女教師は娼婦(その23)

東條裕史様


お手紙ありがとうございます。

吉原で刺されたと聞き大変心配しております。

早く傷が治って、元の元気な東條さんにもどることをお祈りしています。

どうか、そのような探偵ごっこは止めて、すべてを警察の手に委ねてください。


こちらの高校では、ごくふつうにクラスに溶け込んで勉強できています。

英語でのコミュニケーションはまったく問題ありません。

これは亡くなられた美祢子先生が、いわゆる受験英語ではなく、読む・書く・聞く・話すの4つの実用的な英語をしっかり教えてくださったからです。

美祢子先生といえば、先生が殺された夜、用事があったからD坂に行った訳ではありません。

東條くんはあの週末に必ずD坂に行って美祢子先生に会うと信じていたからです。

美祢子先生は東條くんをペットのように可愛がっていました。

東條くんも、先生にあこがれているのがよく分かっていました。

これはクラスの全員が知っていたことです。

どうしてD坂に行ったのか今もって分かりません。

あるいは、嫉妬心からでしょうか?

ふたりでホテルにでも入ったら、私はどうしたでしょうか?

じつはあの夜バッグの中にナイフを隠し持っていたのです。

そうなったら、その場でどう動いたのか、それは想像もできません。

ひとはこころの内に毒蛇を飼っているとよく言われます。

・・・もしかしたら、あの夜、私は毒蛇の化身になったのかもしれません。

あの夜、ほんとうに森本くんを見たのはまちがいないかとのおたずねですが、・・・答えはYESです。

D坂で前を行く森本くんを見かけました。

トレンチコートにスーツ、大きなサングラスに黒マスクでサラリーマンのような恰好でしたが、まちがいなく森本くんでした。

森本くんは時々振り向いて、私があとをつけているのを確かめていました。

きっと別のルートからあなたがあとをつけていたのも知っていたはずです。

それを知っていて、これ見よがしに美祢子先生をホテルに誘ったのです。

そして先生を惨殺しました。

何という悪魔の所業でしょう。

その上、あなたと私がD坂のホテル街にいたと警察に密告したのです。

じぶんが先生とホテルに入るのを見たなどと証言したら、どんな目にあうか、ブラフをかけてきたのです。

あなたは勇気のあるひとです。

ちゃんと見たことを正直に話しました。

・・・私はダメです。

D坂に行ったことも、森本くんが先生とホテルに入るのを見たことも、警察には言えませんでした。

・・・それで、第二、第三の事件まで起きてしまいました。

あれはやはり森本くんが起こした事件なのでしょうか?

それに、ついに第四の事件まで起きてしまいました。

すべてが模倣犯の仕業だとしても、最初に森本くんを告発していればこんなことにはならなかったはずです。

・・・そういった意味では、私の罪は重いものがあります。

だれに赦しを乞えばよいのでしょうか?

それとも、今から警察にでも行けと?

教えてください。


                                川崎エリカ

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