あこがれの女教師は娼婦(その19)

ソープランドなどに行ったことはないが、どんなことをするところかは、おおよそ知っている。

だが、行くと見るとでは大違いということを、若者は知らない。

日が暮れるころ、脇坂とふたりで下見にやってきた。

バスを降りて、消防署の裏手のアパートや住宅地を抜けた一角ぜんぶが、ソープ街だった。

残照が映える藍色の空の下、巨大な看板のネオンサインがまばゆく輝く中を、恵比寿苑を探して歩くと、あちこちから呼び込みの声がかかった。

顔を伏せ肩をすぼめてやりすごすしかない。

セラヴィはソープ街のはずれの小さな公園に面した通りの角にあった。

さほど大きくも小さくもなく、フランス語の名前のお店にしては和洋折衷のしゃれた建物だった。

左横がソープ街の共同駐車場で、送迎用の巨大な外国車がずらりと並んでいた。


脇坂と並んで公園のベンチに座り、ぽつんと一軒だけ離れて立つセラヴィを見上げた。

「ほんとうに、ここで殺人事件などあるのだろうか?」

こころ細くなってたずねると、

「今まで、あの殺人予告が来たら必ず殺人があった。犯人は几帳面な優等生なのかね。必ず指定の日時と場所で殺人を犯している。今回もまちがいはない。・・・ソープって、12時に閉店と条例で決まっているので、閉店間際に予約して入った客がソープ嬢を惨殺するはずだ。11時だか、11時半に予約した客が遊んだ後に殺すとちょうど12時だ」

と、自信たっぷりの脇坂は、すべてを予見したように言った。

「今日の出勤は、12名。11時以降に予約が埋まっているのは、今のところ3人だけだ。その3人についた客のひとりが殺人犯だろう」

「高校生なんか予約で入れるのかね?」

「さすがに学ランじゃまずいだろうが、スーツを着て来れば問題はない」

脇坂は、ソープ遊びの達人のような口ぶりだった。

まだ12時まで相当長い時間があったので、11時にこの公園で再び会うことにして、それぞれの家へいったん引き上げた。


11時ちょうどに公園にもどると、脇坂は黒いキャップ、大きな黒いリュックの黒づくめの服装でベンチに座っていた。

「新宿では後れをとったので・・・」

と言う脇坂は、すでに懐中電灯とスタンガンを手にしていた。

街路灯が煌々と公園を照らしていたので、11時半前に公衆便所の裏の薄暗闇に移動してセラヴィを見張った。

その間、客はひとりも出てこなかった。

やがて店の看板のネオンが消え、代わりに夜空の中天にかかる月がエントランスを照らし出した。

12時を少し回ったところで、シルバーの大型高級外車が横の駐車場を出て、エントランスに横づけになった。

車の陰になってよく見えなかったが、3人ほどの客が店を出て来た。

「キャバクラとちがって、ソープのホステスは客の見送りには出ないんだ」

脇坂は、どこまでも下世話な話には通じていた。

相乗りで車に乗り込む客を見て、

『あの中に犯人がいる!』

と思ったが、

「ここにいてくれ。すでに個室で殺人は起こっているはずだ。裏口を見てくる」

そう言って背を向けた脇坂が持ち場を離れた。

目の前を送迎の高級外車がエントランスを離れるとすぐに、黒いワゴン車が横の駐車場に滑り込んで来た。

・・・やがて、建物の裏手から女の悲鳴があがった。

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