あこがれの女教師は娼婦(その20)

そこをめがけて走った。

建物裏手の従業員が出入りする木戸口が開いたままの戸口で、私服に着替えたソープ嬢が口を押さえて棒立ちになっていた。

彼女の足元には、非常灯に照らされた下半身剥き出しの女が横たわっていた。

黒いワゴン車のハッチバックの扉を閉め、運転席へ向かって小走りに走る黒いトレンチコートの男が見えた。

「待て~」

われながら、どこからそんな声が出るのかと思うほどの大声を出して追いすがった。

黒いトレンチコートに大きなサングラスに黒いマスクの長身の男が、振り向きざま体当たりを食らわした。

男の勢いに圧倒されて仰向けに倒れると、腹に激痛を感じた。

目の前の黒いワゴン車がタイヤをきしませて走り去った。。

背後にばらばらと黒服たちが駆けつけてきた。

「おい、こいつを捕まえろ」

「警察だ」

「いや、救急車だ」

口々に叫ぶ男たちに驚いて半身を起こしたが、やがて気を失った。

救急車とパトカーのサイレンの音に再び目をさますと、脇坂が心配そうな顔で覗き込んでいた。

改めて手を見ると、掌が血でべっとりと濡れていた。


緊急搬送された病院で傷口を縫うと直ぐに、近くの所轄署の取調官から事情聴取を受けた。

「脇坂はどうしました?・・・ああ、いっしょにいた同級生です」

枕元に座った取調官は、ひと言も答えず、ただじっとこちらを蛇のように冷たい目で見ていた。

どうして吉原に来て向かいの公園に潜んでセラヴィを見張っていたかを、殺人予告の脅迫状が来たことから話した。

考えてみれば、これで、宿中央公園のホームレスの若い女殺しに続いて2回目の警察の事情聴取だった。

取調官は、脇坂のことも含めてひと通り話を聞いただけで、退院した別の取調官が所轄署で改めて話を聞くと言い残して立ち去った。

ベッドに横になっていると、いろんな考えが頭に浮かんだ。

・・・後悔しかなかった。



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