あこがれの女教師は娼婦(その16)
それから1か月は何事もなく過ぎた。
殺人予告の手紙もなく、4人目の猟奇的殺人も起こらなかった。
ある朝、全校生徒が講堂に集められた。
校長が、3人の交換留学生を壇上に呼び上げた。
はじめがエリカだった。
ふたり目が、やはり成績優秀な別のクラスの女子だった。
3人目が、なんと森本だった。
にきび面の森本は、厚い胸板をそびやかすようにしてエリカの隣に立った。
満面の笑みを浮かべていたが、なぜかその笑顔はニコニコというよりもニタニタといった歪んだ笑顔だった。
あからさまに顔をそむけたエリカは、拳を固く握りしめ、今にも倒れそうだった。。
校長に、「代表してあいさつを」と振られたエリカは、なんとかまっすぐに立ち、英語でスピーチをはじめた。
美祢子先生仕込みのクリヤーな淀みのない英語だった。
『交換留学生として、アメリカ合衆国のサクラメントの高校に行くが、将来はニューヨークの医科大学に進み、最先端の医療技術を身につけた医者になりたい』
そのようなことをエリカは堂々と話した。
全校生徒が、講堂を揺るがすような拍手をした。
森本は、相変わらず涎を垂らさんばかりにしてニタニタ笑いながらエリカを見ていた。
まさに壇上の美女とゴリラのような絵柄だった。
教室にもどった同級生たちが、『3人の交換留学生はサクラメントの同じ高校に留学するらしい、交換でサクラメントからやって来るアメリカの高校生はどんなやつだろう』とひそひそ話していた
授業が終わるのを待ちかねて、エリカが自転車で校門を出るのを待ち伏せした。
「森本くんが交換留学生に選ばれるとは思わなかった」
おぞましい殺人鬼と思っている劣等生の森本と同じ壇上に並ばされる屈辱を味わされたエリカは、そう言って怒りに震えた。
森本の父親は、中堅の消費者金融の会社のオーナーで、金の力で交換留学生に押し込んだのは見え見えだった。
「あんな下司と、アメリカまで行って、同じ高校に通うなんて考えられない」
お嬢さまとばかり思っていたエリカの口から、はじめて毒のあることばを聞いた。
・・・しばらくして、エリカは交換留学生を辞退して、ボストンの高校に転校手続きをして日本を出国した。
すると、森本もエリカを真似たのか、交換留学生を辞退して、カリフォルニアの高校に転校していった。
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