あこがれの女教師は娼婦(その15)

「ほんとうに偽手紙でおびき出されたのか?」

ホームレスたちに西新宿署に突き出され、脇坂とは別々の取調室で聴取された。

ちょうど2通の手紙をリュックに入れて持っていたので、机の上に並べた。

中年の刑事は、それをためつすがめつ見ていたが、証拠として預かると言って取り上げてしまった。

新宿のホテルのロビーで脇坂と合流してから公園をくまなく歩き回り、カメラマンが若いホームレスの女のブルーテントに引っ張り込まれ、・・・悲鳴が聞こえたので駆けつけて死体を見つけた話を、何度もさせられた。

小鹿のように走り去った大きなサングラスに黒いマスクで背の高い男の話もした。

ひと月ほど前の、D坂で美祢子先生とラブホに入った男と似ていると言うと、そこは何度も念を押された。

むろん、同級生の森本の名は出さなかった。

やっと解放され、西新宿署を出る時は、午前零時をとうに回っていた。

迎えの車のハンドルを握る父親は、頑なに前を向いたままひと言も口をきこうとしなかった。


翌朝学校に行くと、さっそく脇坂とともに校長室に呼び出された。

校長と教頭と学年主任が座る前で、昨夜取り調べの刑事に何度も言ったことを言わされた。

教室へもどると、ヒーローを迎えるような大騒ぎになった。

うらなりのようにおとなしい数学の教師が、なだめにかかったが、騒ぎは収まらなかった。

森本は休んでいた。

エリカは、疑い深げな眼差しでチラとこちらを見たきり、ノートに黒板の数式を写すのに没頭していた。

10分ほどで数学の授業が終わると、脇坂が廊下に連れ出し、

「危うかったな」

と顔を寄せて言った。

「われわれはホームレス殺しではないので、別に危うくはない」

と怪訝な顔で答えると、

「甘いな。日本全国の青少年がホームレス狩りをやっているのを知ってるか。警察は、われわれを新宿のホームレス狩りの犯人に仕立てようとしたのだ」

「へえ~」

「事に及ぼうとしてズボンを下したカメラマンが、頭をかち割られる前に男を見ていたので助かった」

「おお」

「何でも、黒のコートに大きなサングラスに黒マスクというのを覚えていたそうだ」

「それって?」

「そう、まちがいなく君が見た男だ。・・・それで俺たちの疑いは晴れた」

チャイムが鳴った。

教室の席にもどる時に、窓際の森本の空いた席を見た。

・・・大きなサングラスに黒いマスクの巨大化した森本が、サバイバルナイフをふりかざして襲って来る幻影を、一瞬そこに見たような気がした。

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