あこがれの女教師は娼婦(その14)
噴水池にもどると、円形劇場のような敷地に同心円の円弧を描いて配置されたベンチで、同じカップルがそのまま同じ格好で抱き合っていた。
中には、女性が男性の膝の上に乗って激しくキスを交わす情熱的なカップルもいた。
彼らの邪魔をしないように、円形の敷地の外を大回りして、木立が住宅地に迫るあたりに行ってみた。
木立の暗闇の合間に三角屋根のブルーのテントが点在していた。
どのテントが都市伝説のお助け婆アのものなのか、これでは分からない。
テント群の右手奥の巨大な外資系ホテルに近い小高い丘が、低木に囲まれた小さな緑地になっていた。
その緑地の芝の上にコートをシーツ代わりに敷いた中年のカップルが、抱き合ってねちっこく愛撫を交わしていた。
どうやら男の手は女のスカートの奥に伸び、女はのけ反ってあえいでいるようだ。
その時、左手の奥の木立の中でカメラのレンズが微かな光に反射した。
そちらへ気付かれないように忍び寄ると、カメラマンは中年のカップルに背を向けて木立の中へ消えた。
そのカメラマンに近寄る若い女がいた。
二言三言話すと、女が先に立ってカメラマンを木立の奥へ導いた。
テントが立ち並ぶ一角の手前の水飲み場近くに、女が住むテントはあった。
女とカメラマンはそのテントの中へ消えた。
・・・お助け婆アではなく、お助けお姉さんだった。
あまり居心地のいい時間ではなかった。
先へ行っても後にもどっても、大人の愛欲のすさまじさを見せつけられるだけだった。
さすがの脇坂もそれは同じで、ちょうど二つの愛欲の場の中間の、いわばニュートラルな緑地にふたりでへたり込んだ。
脇坂は、持って来た魔法瓶から、ホットコーヒーを二つのカップに注いで分かち合うと、
「ちょっとトイレに・・・』
と言って暗闇の中へ消えた。
その間ひとりでいると、この公園ぜんぶでどれだけの愛欲の交換が行われているのかを想像して打ちのめされた。
・・・遠くで女のうめき声が聞こえたような気がした。
コーヒーカップを放り出し、若い女のブルーテント目がけて木立の中を走った。
ちょうど、女のテントから男が抜け出し、噴水地の方へ走り出すのが見えた。
黒いコートに、大きな黒いサングラス、黒いマスク姿の背の高い男だ。
小鹿のように走り出した男の背は、みるみる暗闇の中へ消えていった。
ブルーテントの中を懐中電灯で照らすと、カメラマンの男がズボンを半分だけ下した格好で、頭を抱えてうずくまっていた。
その横のマットレスの上で、仰向けに横たわった女の剥き出しの下半身が光の輪の中に浮かび上がった。
からだがひゃっくりを起こしたようにびくんとして、恐ろしさのあまり懐中電灯を取り落としそうになった。
・・・広げた股の間が血で濡れていた。
踵を返してテントを出ようとすると、顔中髭だらけの大男が目の前に立ちはだかった。
その男の後ろに、ホームレスたちが、手に手にゴルフのパターや金属バットを持って集まって取り囲んだ。
・・・公園でゴルフや野球をするためではない。
彼らのマドンナを殺した男をリンチにかけて、仇を取ろうというのは明らかだった。
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