あこがれの女教師は娼婦(その6)

安酒が回ったのか、足元の定まらない先生は、だらだら坂をよろめきながら登った。

そこへサラリーマン風の若い男が不意に現れ、横についた。

黒いトレンチコートの長身の男だったが、先ほどの諍いになった大男ではなかった。

暗闇の中で、しかも大きな濃いサングラスに黒いマスクなので顔はよく分からない。

しばらく並んで歩いていたが、話がついたのか、男と先生は裏道のラブホテルに消えた。

電信柱の陰から、ふたりが消えたエントランスをしばらく見ていたが、この先がどうなるのかまるで分からないので、引き上げるしかなかった。

D坂へ抜ける細い路地に入ったところで、レインコートを着た若い女と鉢合わせをした。

「川崎くん!」

「東條くん!」

心底驚いたのか、エリカは大きく口を開け、目を見張った。

背をくるりと向けると、いつもの優雅に歩くエリカではなく、飛ぶようにしてD坂の方へ走り去った。


翌朝学校へ行くと、教室で同級生が三々五々集まってひそひそ話をしていた。

席に着くと、隣の脇坂が長髪をかき上げて、

「噂を聞いたかね?」

とたずねた。

「いや。・・・何の噂?」

ここで、脇坂はもったいぶって、

「へえ、知らないのかい。ティーチャーズペットさんが」

と焦らしにかかった。

なおも脇坂の幽霊のような白い顔を見ると。

「美祢子先生が死んだ」

と、鼻先で笑うように言った。

「えっ、先生が?」

「殺された」

「どこで?」

ここでも、脇坂は一拍間をおいて焦らし、

「D坂のラブホだよ」

と得意気にいった。

「犯人は?」

「まだ分からない。『女が寝ているので先に帰る』と男が先に出たらしいが、女がいつまでも出てこないのを怪しんだ従業員が部屋に入り、美祢子先生の遺体を見つけた」

これには、驚くしかなった。

トレンチコートのサングラスと黒いマスクの若い男が先生があのラブホに入るのを見た目撃者ってこの俺?

いや、エリカも見たのではないか?

そのエリカを横目で探したが、その席に姿はなかった。

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