あこがれの女教師は娼婦(その7)

その日は、エリカだけでなく森本も欠席した。

授業が終わると、一目散に家に帰って犯罪ネットを見た。

美祢子先生の実名入り、勤務先の学校名入りでD坂のラブホ街での殺人事件を詳細に報じていた。

半分は警察のリーク、半分は記者の憶測だろうが、ここのラブホの従業員の証言を紹介していた・・・。

トレンチコートを着た大きなサングラスに黒いマスクの若い長身の男と赤いミニのワンピースの小柄な中年女が20時ごろ3階の305号室にチェックインした。

1時間もしないうちに、男があたふたと降りて来て、「女が寝込んでしまったので先に帰る」と言い残してホテルを出た。

ところが、使用時限の3時間経っても女が出てこない。

部屋に電話をしても応答がないので、合鍵で部屋に入った。

そこで、黒いミニスカート姿の中年女が下半身剥き出しで、ベッドの上に大股を開いて横になっているのを見つけた。

その股間は血だらけだった。

美祢子先生は、D坂のラブホでレイプされ、血まみれの下半身剥き出しで殺された。

・・・ざっと、そんな記事だった。


翌朝は学校の講堂で、全校集会が行われ、まず校長が1分間の黙禱を呼びかけた。

黙祷が終わると、校長が美祢子先生の事件のあらましを話し、先生の業績をたたえ遺徳を偲んだ。

話の中に、レイプとか血だらけの下半身とかの刺激的なことばはなかった。

高校生相手では仕方ないが、そんな殺され方をしたというのは新聞記者の憶測でしかなく、事実かどうかは定かではなかった。

・・・それは当然だった。

教室にもどると、

「ひどい殺され方だったな」

と脇坂が日ごろのシニカルな口ぶりから一転して、しおらしく言った。

脇坂もまた犯罪ネットの愛好者だった。

「・・・・・」

今日は、この話はしたくなかった。

放課後は、青白い顔の森本をはじめ、脇坂の賛美者たちが彼を取り囲むこともなく、三々五々それぞれが家路についた。

エリカは昼休みも席を離れず、本を読む振りをして、こちらに目を向けようともしなかった。


しばらくすると、刑事がひそかに学校へやって来て、はじめにじぶんが、次にエリカが会議室で事情聴取を受けた。

「あの日、君は先生のあとをずっと追っていた」

刑事はそう決めつけた。

交番やラブホ街の防犯カメラにじぶんの姿が映っていたにちがいない。

「先生が、若い男とあのホテルに入るのを目撃したね」

と問われて、うなずくしかなかった。

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