あこがれの女教師は娼婦(その4)
金曜の夜、友達といっしょに勉強すると母親に嘘をついて、夕食も食べずに家を飛び出て、D坂へ向かった。
日が暮れかかったた坂の右手の斜面一体に、思い思いの意匠を凝らしたラブホテルが林立していた。
迷路のように曲がりくねった道をたどったが、いちようにホテルのエントランスが小さくて目立たず、覚えきれないので、いちどはまり込んだら元の場所にはもどれそうにもなかった。
おまけに坂道ときている。
どこからともなく現れたカップルが、肩をすぼめて抱き合うようにしてホテルのエントランスに次々と消えていく。
同じようなところをぐるぐる回ったが、とっぷりと日も暮れてあたりは真っ暗闇となり、街路灯とホテルの看板のネオンの明かりが強く輝きはじめた。
その街路灯の下に赤いミニスカートの大柄な女が立っていた。
手招きするので近寄ると、
「あらっ、子供じゃないの」
色の浅黒い女が、毒々しい赤い唇の間から、たどたどしい日本語を吐き出した。
手招いておきながら、今度は手の甲を外に向けて振っ追い払いにかかった。
さらに坂道を登ると、どの街路灯の近くにも、いわゆる立ちんぼと呼ばれる女が網を張っていて、
「お兄さん」
と路地の暗闇から女が手招きした。
もっとも、こちらが学生と分かると、すぐに毒づいて背を向けた。
すべての通りを見て回ったわけではないが、どうにも美祢子先生を見つけることはできそうになかった。
翌日の土曜の夜も、今度は塾の先生に相談に乗ってもらうなどと嘘をつき、やはりD坂にやって来た。
乳色の夜霧が、とっくに日の落ちたラブホ街を薄いベールのように包んでいた。
スタジャンの襟を立てて盲滅法にホテルとホテルの間の路地を歩いた。
雨模様のせいか、街路灯の下を通っても、立ちんぼの女から声を掛けられることはなかった。
「何よ、口ばっかりね」
遠くでキーキーと喚く女の声が聞こえた。
「約束と違うじゃないか」
「役立たずの男からは、たくさんいただくのよ」
大きな男と小柄な女が、口論をしながらもつれるようにして暗い坂道を下りて来た。
毒々しいほど真っ赤なルージュを引いた唇に、太腿も露にした真っ赤なミニスカートの女は、・・・美祢子先生だった。
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