あこがれの女教師は娼婦(その3)

憮然とした面持ちで校門を出ると、

「東條くん。いっしょに帰ろう」

同級生の川崎エリカが不意に自転車を押して現れ、並んで歩くことになった。

エリカは、女子の中ではいつもトップの成績で、すらりと背の高い大人びた美少女だ。

両親とも開業医のひとり娘で、神秘的なオーラをまとい、しつけのよい金持ちの娘という枠から決してはみ出ようとはしないので、同級生の男子にとっては、デートに誘うなど思いもよらない。

「東條くんは、交換留学生に応募しないの?」

首を傾げたエリカは、前を向いたままおずおずととたずねた。

「・・・ああ、いや、特には」

父親が、急に研究所を辞めて家に引きこもり、何やら自主研究をはじめたので、家の経済が逼迫しているのはよく分かっていた。

たしかに、学校の掲示板に交換留学生募集の張紙が掲示されてはいたが、留学などありえないことだった。

「私は、応募してみようと思っているの」

エリカは、ぽつりと言った。

「・・・・・」

「東條くんも、いっしょに行けるとうれしいな」

前を向いたまま、エリカは事もなげに言った。

「・・・・・」

「もし経済的に大変だったら、東條くんの費用も出してくれるようにパパに頼んでみる・・・」

驚いてエリカを見ると、見返したエリカの晴れやかな顔には、何のとまどいもなかった。

「さようなら」

エリカはスカートを翻して自転車に乗ると、ペダルをひと蹴りして、日が傾いた西の空の下へ向かって走り去った。

・・・ブラウンの革靴の短いソックスの白さが、いつまでも目に焼き付いて離れない。


翌日の昼休みに、美祢子先生から職員室に呼び出しを受けた。

ランチの小さな弁当箱を包んだ白いハンカチの包みを、机の隅に押しやった先生は、隣の同僚の空いた席に座るように促した。

「交換留学生のことだけど・・・」

先生はそう言って、こちらをうかがった。

くっきりとした目と形のよい鼻と小さな唇、・・・化粧っ気のまったくない顔は美しいが、時間に例えれば、午後2時を少し回りかけた日の翳りが顎のあたりにほのかに見えた。

胸は薄い。

ただ、からだぜんぶから、香水と体臭が入り混じったきつい匂いが、生きる欲望という名のオーラとともに発散していた。

L・U・S・T・・・そうだ、欲望だ。

「交換留学生に応募しないの?」

先生の語調には、たずねるというよりも責める感じがあった。

・・・むしろ怒っている。

「あなたが行かなくて誰が行くの?」

「・・・・・」

二日も続けてこんな話を聞くとは思わなかった。

「先生からご両親にお願いしましょうか?」

これは詰問にちがいない。

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