あこがれの女教師は娼婦(その2)
今日の最後の授業の現代国語が終わると、にきび面の大男の森本をはじめ、脇坂の賛美者たちのさえない同級生たちが、机に腰掛けた脇坂を取り囲み、やつが仕入れてきたエロ話を聞こうと、ご主人に餌を与えられる犬のようにあんぐりと口を開けて待っていた。
それを横目に見て、カバンに教科書を詰めて帰り支度をはじめると、
「よう、美祢子先生のペットさんよう、こんな噂を知ってるか?」
唇に歪んだ笑いを浮かべた脇坂は、爬虫類のような冷たい目を向けた。
常にクラスのトップの成績を争う脇坂は、じぶんに対する敵対心と知的エリートとしての仲間意識とのふたつを、コインの裏表のように持っていた。
立ち上がって、
「いや」
と答えると、
「知りたいかね?」
脇坂はニヤニヤしながらたずねた。
「知りた~い」
森本が、身をよじるようにして、わざとオカマのような裏返った声でいった。
「美祢子先生は、週末になるとD坂のラブホ街で客を引いているらしい。・・・いわば、売春婦だ」
「売春婦だってえ~」
森本が、頭のてっぺんから素っ頓狂な声を出した。
「それも硬い男が好きらしい」
「硬いって?」
賛美者のひとりのうらなり男が脇坂に素朴な質問をした。
「硬いっていえば、決まっているだろう。なに、だよ。なに」
森本がはやし立てるように言った。
「えっ」
純朴な少年は、まだその意味が理解できてない。
「美祢子、硬くてぶっといのが好きなの~」
頭の後ろに手を当てて顎を突き出してポーズを取った森本が、Marilyn Monroe主演のSome like it hotだかの邦題をもじって、笑いを取ろうとしたが、しゃれが通じないのか、だれも笑わない。
血相を変えて詰め寄ると、森本は腰に両手を当ててすっくと立ち、
「さあ、殴れよ。一発で退学だ。殴れよ」
と、逆に厚い胸板で押し返してきた。
「まあ、その辺にしておけよ。森本ちゃんにはとっておきのネタを教えるからさ」
脇坂がふたりの間に割って入った。
「なに、なに、なに」
森本は、今度は首を振って脇坂にじゃれつくようにして言った。
「・・・気に入った男からは代金はいただかず、満足させられなかった奴からは法外な金を巻き上げるので、しょっちゅうトラブルになるらしい」
「やっぱり、お硬いのが好きなんだ。こりゃ筋金入りだわ~」
脇坂の見て来たような嘘を真に受けた森本が、同じギャグをお道化たように言っても、誰ひとりクスリとも笑おうとはしなかった。
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