あこがれの女教師は娼婦~引きこもり探偵の冒険1~
藤英二
あこがれの女教師は娼婦(その1)
I was born with other traits besides my romantic fancy.
I have definite sadistic delight in seeing or causing death.
From an early age I knew very strongly the lust to kill.
黒板にチョークでさらさらと流麗な筆記体で書いた先生は、振り向くと、
「これはAgatha ChristieのAND THEN THERE WERE NONEの一節で、孤島で連続殺人を犯した犯人のモノローグです。ひとり殺されるごとに、マザー・グースのわらべ唄にちなんで、10体のインディアン少年の陶器のフィギアが1体ずつなくなっていって最後はゼロになるという有名なミステリー小説です。邦題は、『そして誰もいなくなった』」
とおっしゃった。
板書をする先生の、タイトなスカートの逆ハート形のお尻に見惚れていて、
「東條くん、これを訳してみて」
と急に振られたので、火が噴き出すように顔が真っ赤になった。
気を取り直して立ち上がったが、頭の中が真っ白で何も思い浮かばない。
「ようっ、ティーチャーズペット。がんばれ」
通路を挟んで横に座る青白い顔の脇坂が、小声で冷やかしたので、ますます頭が混乱した。
「何か分からない単語はありますか?」
先生が微笑みながらやさしくたずねた。
「ああ、そうですね。・・・traitとか」
「traitは、characteristicsと同じで、特徴です。他には?」
「ええ、fancyが・・・」
「fancyは、imaginationと同じく想像力です」
「ああ、あとは、lustです」
「lustは欲望です」
ぴしゃりと先生がおっしゃたので、今度は欲望から性的欲望を連想し、
『こんな知性的な先生でも、性の欲望を感じるのだろうか?』
などと妄想がふくらみ、また顔が赤くなった。
「さあ、どうです?」
先生が促したが、口がもごもごして、ことばが出てこない。
「どうも、いつもの東條くんではありませんね。・・・それでは、脇坂くん、チャレンジしてみます?」
脇坂にお鉢が回りそうになったので、
「あ、いえ、やります」
と口ごもりながら答えた。
脇坂などに、この得難い役回りを奪われてなるものかと対抗意識を燃やすと、やっと口が回るようになった。
「・・・ロマンチックな想像力とは別に、もうひとつの特徴をもって、私は生まれた。ひとが死んだり、死にそうになるのを見ることに、私はとてつもない嗜虐的な喜びを感じる。幼少のころから、殺すという強い欲望を、私は知っていた」
一気に訳してから、ストンと椅子に腰を落とすと、
「東條くん、さすがです。・・・完璧です」
と先生が褒めそやすので、顔はまたさらに赤くなった。
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