〖転-1〗始動(240505改稿)
【マヌエル・ジャンク・ショップ】
・閉店後店内は薄暗い。接客コーナーのダウンライトだけ灯が入り、4人用テーブルセットが2セット照らされている。そのうちの1つに、ローラ、ジェイクが座り、対面にケンノビ、ドリーが座っている。ジェイクは赤ら顔、ローラは無表情、ケンノビはちょっと思い詰めた顔、ドリーは怒り顔で大人2人を睨んでいる。
ローラ:「…まずは、ドリー。そんな親の仇を見るような眼つきをおやめ」
ドリー:「だって…」
ケンノビ:「ドリー、俺から話すから」
・ローラが、視線をドリーからケンノビに移して、それで?と表情で促す。
ケンノビ:「爺ちゃんと母さんが守って来たこの店は、俺が守る」
・ローラとジェイクが、?という顔をする。
ドリー:「私だって…」
・ケンノビがドリーに視線を振って黙らせる。
ドリー:「だって…」
ローラ:「一体、何の話をしてるんだい?」
ドリー:「高校に税務官が来た…」
ローラ:「あぁ、あの眼つきのやたら悪い若造…」
ケンノビ:「俺とドリーを引き取ってもらった時の約束を覚えてる。だから、俺が学校辞めてこの店守る」
・ローラが少し身を乗り出して口を開く。ジェイクが、ローラを手で押さえて、ケンノビを促す。
ケンノビ:「ドリーは学校に通わせて欲しい。俺が高校を辞めるのは、2学期から。この夏休みは、やりかけた事をやってしまいたい」
ドリー:「ケンノビが高校辞めるなら、私も辞める!」
ケンノビ:「俺は、通信で商売しているから出来る。もともと修行のために始めたことだし。適材適所だ。ドリーには商売の才能はない」
ドリー:「そんなの、やってみなきゃ判んないじゃん!」
・ローラが再び口を開こうとするのを、ジェイクをが止める。
ジェイク:「面白い。愁傷な心掛けだ。それは、孤児院から家に来るときにローラとした約束の事か?」
ノビイ:「孤児院から引き取るのは元々ドリー1人のはずだったんだ。家の稼業を手伝うって約束で、俺も拾ってもらった。約束は守る」
・ジェイクが、ローラをチラリと目を振る。ローラは、口をへの字にして、黙っている。膝の上に置いた手が握りしめられて、微かに震えている。
ジェイク:「ローラ、ウチの入金缶を持ってこい」
・ローラが、ガタリと大きな音を立てて立ち上がり、いかり肩で店のカウンターに歩いていく。
ジェイク:「だから、ドリーは親の仇みたいな目で見てたのか?」
・ドリーが黙って頷いた。
ドリー:「だって…」
・俯いたドリーのまつ毛に綺麗な水玉が宿り、ドリーは慌ててそれを手の甲で拭く。
ドリー:「今度は、私がケンノビを守る番なのに…」
・ローラが、テーブルの上にデカい缶を置く。直径30cm高さ70cm位の大きな缶。
ローラ:「持ってきたぞ」
・ジェイクが大きく頷く。
ジェイク:「ウチの経理システムだ」
・ケンノビが、は?という顔をする。
ケンノビ:「これ、売上金入れてる缶だよな?」
・ジェイックが、ニヤリと笑って大きく頷く。
ジェイク:「そうだ。物を売ったら、これに入れる。物を仕入れたら、ここから支払う。家賃も税金もここから支払う」
ケンノビ:「帳簿は?」
ジェイク:「俺が店継いでから無いな」
ケンノビ:「いやいやいや。そんな偉そうに…」
・ジェイクが悪ガキのように笑う。
ジェイク:「今さらの話なんだよ。あの税務官もそのうち諦めるだろう」
ケンノビ:「いや、諦めるだろって。いつの時代の話だよ」
ジェイク:「税務官が来たからって、ジタバタする必要はないさ。お前らは、好きなように生きれば良い。学校行きたいなら行け。他のやりたい事が出来れば、それをやったら良いさ」
ケンノビ:「だって、俺は約束が…」
ジェイク:「俺達が若い頃苦しんでいた様に、お前達が苦しんでいたとしたら、俺達はお前達を助ける。けどそれは、お前達を助けた訳じゃないんだ。あの頃の若かった俺達を助けているだけなんだ。何かを返して欲しい訳じゃない」
・ケンノビが、何を言われているのか解からず、少し首を傾げる。
ジェイク:「…お前も歳を取れば解かるさ。どうしても返したければ、お前らが一人前になったとき、困ってる奴らを助けてやれば良い」
ドリー:「爺ちゃん…」
・ドリーがジェイクに抱き着く。グスグス泣きながら、ジェイクの肩に顔をこすりつける。
・ローラが、孫にデロデロのジェイクを冷たい目で見ている。
ローラ:「良いとこ全部持っていきやがって…」
・ケンノビが、缶から、古そうな帳簿を出してペラペラめくる。
ケンノビ:「うわぁっ、この帳簿、マジで60年前の日付だ。爺ちゃん、これ以外に本当に帳簿ないの? いや電子データでも良いんだよ?」
ジェイク:「無いな」
ケンノビ:「カッコよいこと言ったけど、ダメじゃん」
ローラ:「ケンノビ、私はこの店はしばらく休もうと思う。親父には悪いけど、店閉めたって良いと思ってる。私も商売人って柄じゃないしさ。殴ってナンボの生活してきたからさ。商売向いてないんよ」
ケンノビ:「殴ってナンボの生活って…」
ジェイク:「お前に仕事を頼みたい」
ケンノビ:「仕事?」
ジェイク:「あぁ、この店の在庫の棚卸をして欲しい。手間賃は、欲しい在庫があれば、タダでくれてやるってのはどうだ?」
ケンノビ:「店の在庫くれてやるってこと?」
ジェイク:「どうせ、在庫の中身なんて誰も知らないんだ、構いやしねぇよ。ケンノビが出した在庫表が正になる。お前は欲しい部品が手に入る。俺達はお前に給料を払わずに済む。お互いWinWinだ」
ケンノビ:「そりゃぁ、そうかも知れないが」
ドリー:「ケンノビも私も、高校行っても良いって事で良いの?」
ローラ:「勘違いすんなよ。お前達は、誰が何と言おうと私の子供だ。お前達が巣立つまで、そして巣立っても、私はお前達の味方だ」
ドリー:「母さん…」
・ドリーが、涙を溜めた目で声を詰まらせる。
ケンノビ:「良い感じで言ってるけど、これめっちゃ大変じゃんよ…」
・ジェイクとローラが、ニシシと笑う。ケンノビが、目の端が痒いとでもいうように、目尻に溜まった涙を拭う。
ケンノビ:「引き受ける。…ありがとう」
240106投稿
240505改稿
[記号凡例]
①〖〗 エピソード番号 起承転結に分けて採番する。〖資〗は資料編。
②【】 主に、場所を記載する。
③〈〉 氏名・固有名詞・用語。本文中に説明があることがある。
④《》 氏名・固有名詞・用語の説明。
本文中と資料編「登場人物・用語集」に説明がある。
⑤ ・ 主に、登場人物の動きや表情を記載する。
⑥ ・ アニメで言う背景・ドラマで言うセットの内容を説明する。
⑦ 名前:セリフを記載する。例)ドリー:「こんにちは!」
⑧ 説明:状況を説明する。
⑨[] :神沢メモ他を記載する。
⑩ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ :シーンとしての区切り。
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