〖承-6〗記号(230814投稿)

【白い霧の中】

・白い霧の中、少年の声が響く。


少年の声:「ローラ…、ローラ…」


・白い霧の中、16才の少女のローラが、必死に声の主を探す。


ローラ:「ここよ!ここに居るわ。 何処に居るの?」


・白い霧の中、少年の声だけが響く。


少年の声;「絶対強くなるから! ローラの隣に立って恥ずかしくない男になるから! それまで待ってて…」


・ローラが、周りを見回して、霧をかき分けながら叫ぶ。


ローラ:「待って! 行かないで!」


少年の声:「絶対帰ってくるから…」



【ローラの部屋】

・ローラが、ガバッとベッドから身を起こす。消耗して、肩で息をしている。

 夢だと気づいて、片手で顔を覆って、深いため息をついた。


ローラ:「まったく、いつまで待たせる気だい…」


・ローラが窓のカーテンの隙間から指す明かりを見て苦笑いする。


ローラ:「もう…、待ちくたびれちゃったよ…」


          ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ 


【ブラスター・ギルド カウンター】

・キャンディが、カウンターで書類仕事をしている。

 キャンディが開いている書類に影が射す。


・キャンディが顔を上げると、ローラがいる。


キャンディ:「ど、どうしたんですか?」


ローラ:「ウチの優柔不断男は?」


・キャンディが、あぁと納得した顔で答える。


キャンディ:「第2応接です」


・ローラが、?と腑に落ちない顔をする。


ローラ:「この昼時にかい? 誰か来てるのかい?」


・キャンディが、可笑しそうな顔をして


キャンディ:「いえ、メアリー姉さんの手作り弁当を2人仲良く食べてます」


・ローラが、ガクッと肩を落とす。


ローラ:「はぁ~、そこまで胃袋掴まれて、どうして逃げ切れると思うんだろうね」


・キャンディが、あざとく人差し指を頬に当てて考えこむように言う。


キャンディ:「う~ん。逃げるつもりはないと思いますよ。踏ん切りがつかないだけで」


ローラ:「…誰に似たんだか…。だから優柔不断男って言うんだよ」



【ブラスター・ギルド 第2応接室】


・テーブルタイプ4~6人用の小さな応接室。スティーブンとエミリーが、対面に座り、お弁当を食べている。


スティーブン:「弁当、いつもありがとな。美味しいよ」


・スティーブンが、箸で厚焼き玉子をつまみ、口に頬張り、幸せそうな表情をする。

 エミリーが、それを慈愛の女神のような表情で見守る。


エミリー:「うん」


・スティーブンが、エミリーの後ろにあるスクリーンを見て、何かを思い出し、表情を僅かに硬くする。エミリーが、スティーブンの表情を見て、真面目な表情に変わる。


エミリー:「どうしたの? この前のこと思い出したの?」


スティーブン:「まぁな。曾爺ちゃんは、俺らとっての英雄だ。それが、地球と月では、悪魔と呼ばれ、その家族まで周囲から責められて辛い思いをしていたとか…。知識はあっても、実感として思いもよらなかった」


エミリー:「そうね…」



【ブラスター・ギルド 第2応接室】

・スティーブンとエミリーが、応接室でモニターに映るサンディを見つめている。


サンディ:「僕の家では、マヌエルという言葉は禁句だ。声に出してもいけない。写真も1枚も無い。家系型の家庭なのに、家系図にも名前が無い。彼については、そもそも存在しないことになってる」


サンディ:「マヌエルは、2076年にルナシティが独立を果たしたときに英雄となり、2090年に親地球政権が出来てから戦争犯罪者になった。罪状は、地球に著しい環境破壊を与えた罪だ。マヌエルの起こした地球環境の激変のために、4億もの貧しい人民が餓死したと記録に残っている。2090年当時、マヌエルの家族に対する差別や仕打ちは表立っては無かったが、2095年にマヌエルが自宅監禁となってから、世間の風当たりは強くなった。マヌエルを口汚く罵る電話やメールが毎日のように続き、マスコミの悪意のある報道がひっきりなしに続いた。自宅への放火や爆発物が仕掛けられたことも頻繁にあった。マヌエルは、2096年に家族から離れて、ルナシティから離れた郊外に自分が監禁されるための自宅用を購入して引っ越している。それからガルシア家では、マヌエルという人物は最初から存在しないことになった…」


サンディ:「僕は、高校生の時に、ルナシティの歴史に興味を持って歴史学者を目指そうと決めた。そのとき初めて自分がルナシティ独立の英雄を家族を持っていたことに気付いた。それ位、家族はマヌエルのことについて触れなかった。それからマヌエルのことを調べたよ。彼が何を考えて、何を感じて生きていたのか」


サンディ:「僕は、マヌエルを調べていくうちに、ルナシティ独立劇に疑問を持つようになった。大きなパズルのピースが抜けていることに気が付いたんだ。マヌエルは、優秀な電子計算機技師だが、それ以上では無かった。ハードロックオペレーションで有名な〈危難の海〉のカタパルトの建設は、完全に畑違いだ。誰が、設計した? 誰が金を出した? 誰が資材手配した? 誰が工程管理した? 複数の巨大な岩の弾道計算をして、正確にピンポイントに地球のある地点に落とす。そんな事が出来る人間は、暫定政府陣営には居なかった。おそろしく有能なスタッフが居たはずだが、どこを調べても出てこない」


サンディ:「一つだけヒントがある。僕の家族で、〈マム〉と呼ばれた人物が居る。家族の最初期メンバーで、家族の精神的な支柱のような存在だった。マヌエルの約20才年上の妻だ。彼女の日記が残っていて、そこで書いてあるマヌエルの記述は全て入念に塗りつぶされている。ただ一箇所を除いて」


サンディ:「2075年5月13日は、スチリヤーガ・ホールで初めて革命会議が開かれた日だ。その翌日の14日のマムの日記のページは黒く塗りつぶされている。マムが、マニエルと何らかの連絡を取り合っているんだ。そして、そのページの欄外に、マムの小さな字で〈MYCROFTXXX〉と書いてある。これだけだ」


サンディ:「僕は、この失われたパズルのピースを探したい。なんとか協力してくれないか?」


          ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ 


【ブラスター・ギルド 第1応接室】

・キャンディが、応接室のテーブルでサンドイッチを食べている。

 キャンディのサンドイッチに人影が射す。


・キャンディが顔を上げると、ローラがいる。


キャンディ:「今日は、どうしたんですか? 四代目なら、隣ですよ」


ローラ:「いや、キャンディとコミュニケーション取ろうと思って」


・キャンディが、僅かに顔を引きつらせる。明らかに迷惑に思っていて「昼休みぐらい自由にさせてよ」と心の中で毒づきながら、相手がギルドの重鎮なので仕方なく顔に笑顔を張り付けて返事を返す。


キャンディ:「それは、どうも…。それでどうしたんですか?」


ローラ:「いやぁ、現役、復帰しようと思って」


キャンディ:「店はどうするんですか?」


ローラ:「こないだ税務署から厳重注意食らっちゃって。面倒になっちゃって、下の息子に任せようと思って」


キャンディ:「ケンノビですか?」


ローラ:「あぁ、今同級生だっけ? 知ってるだろ? アイツ数字強いしさ。今も、ネット通販の店舗やってて、採掘プラットフォーム船員向けのプライベートオーダー受けてるんだよ。アタシはね、商売は性に合わないんだよ。なにせ、気に入らないと相手殴って解決してたからね。ほら?お金貰ったら頭下げなきゃいけないだろ?」


説明:!キャンディは3回目の高校一年生なので、ケンノビと同級生と言われるのが痛い。ローラの戯言にも付き合い切れないので、ツッコミどころをスルーして、適当に話に合わせて乗り切ることにする。


キャンディ:「〈紅の魔女〉が復帰するとなれば、凄いですよね」


ローラ:「いや、過去の栄光ってやつ?そんなのはいらないんだ。金もあるしさ。

出来れば無名のパーティー立ち上げて、そこそこの案件受けてさ、いろんな所に行って、気に入らない悪党を根こそぎにするってかね。ロマンだろ?」


キャンディ:「もう、世直し旅ですよね。それ」


ローラ:「ただ、チーム名がねぇ。〈紅の魔女〉だと、有名すぎてさ。A級の指名案件なんて来た日にはさぁ、面倒くてしかたがないしね。けど〈紅〉は外せない」


キャンディ:「それは、年寄…ベテランの、ワガマ…理想ですよね」


ローラ:「あたしも歳だしねぇ。〈紅の婆(ババア)〉なんちゃってね」


キャンディ:「その罠みたいな、誰かの寿命を縮めちゃうネーミングやめてくれませんか?」


ローラ:「まぁ、試しで1ヵ月とかでも良いんだよ。だれか若くて良いやついないかねぇ。キャンディ?」


キャンディ:「…アタシ、勧誘されてます?」


ローラ:「いや、学校性に合わないみたいだし? 丁度良いかと思って」


キャンディ:「アタシ18才なんで、ババアにはちょっと早いと思います。アタシ、18才なんで。それに、エミリー姉さんの荒修行がありますんで、お断りします」


          ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ 


【サカモト総合高等学校 ケンノビの教室】

・いつものように、4人で机をくっつけて昼食を食べている。


アーサー:「ケンノビさぁ、あそこの机の人って、お前の知り合い?」


・ケンノビが、チラリと視線を左斜め後ろに投げる。窓際に1つ空席がある。天板の上には、アクリルのメニュー立てみたいのが置いてあり、そこには手書きのイラストが描いてある。ほっぺがまん丸な女の子が、テヘペロの顔をしたイラスト。吹き出しが付いており、「私が代わりに出席中だよ!」と書いてある。


ケンノビ:「キャンディ姉さんな。今頃、ギルドのカウンターで受付してるわ。きっと」


ドリー:「キャンディ姉は、凄いんだよ。一度聞いたことは何でも覚えてるし、臨機応変だし、応用効くし、戦闘やらせても凄いし」


ケンノビ:「それな」


ドリー:「うん、だけど、学校嫌いなんだよね。学校嫌いで登校しないから、出席日数足りなくて、今3回目の1年生なんだよ」


ケンノビ:「そんで、たまに気まぐれでテスト受けるとトップの成績なんだ」


ドリー:「姉さん本人はねぇ、あのアクリルの衝立で、出席扱いになるって思ってるんだよ」


ケンノビ:「自由すぎかよ」



[記号凡例]

 ①〖〗 エピソード番号 起承転結に分けて採番する。〖資〗は資料編。

 ②【】 主に、場所を記載する。

 ③〈〉 氏名・固有名詞・用語。本文中に説明があることがある。

 ④《》 氏名・固有名詞・用語の説明。

     本文中と資料編「登場人物・用語集」に説明がある。

 ⑤ ・  主に、登場人物の動きや表情を記載する。

 ⑥ ・  アニメで言う背景・ドラマで言うセットの内容を説明する。

 ⑦ 名前:セリフを記載する。例)ドリー:「こんにちは!」

 ⑧ 説明:状況を説明する。

 ⑨[] :神沢メモ他を記載する。

 ⑩ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ :シーンとしての区切り。

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