〖承-2〗ガンシティ(230514投稿)
【ハヤブサ 北ポート駅】
・ハヤブサの《北ポート》駅から、北ガン線4両編成の列車が発車する。暗いトンネルの中を、ライトを点けた列車が走る。暗いトンネルが切れて、宇宙空間に出る。トラス状に組まれた路盤の上をレールが走り、その上を列車が走る。線路の上を走る列車を包む透明チューブが、緩やかな弧を描いて、その先のエウレカとガンシティに繋がっている。
《北ポート》
小惑星帯から採掘された鉱石類を、荷揚げするための港施設。採掘プラットフォームからの輸送船や、ドリルシップが荷下ろしを行う。鉱石を品質ランク別に仕分けしたり、買取りを行う施設も含む。
【ガンシティ駅】
・ライトを点けた4両編成の列車が、トンネルの暗闇の奥から、駅のホームに近づいている。駅の構内は、経時劣化による古さを感じる。照明の配置・柱・階段などのデザインは攻めているが、照明の灯具などのパーツが古い。建築当時は未来的で斬新だったんだろうと感じさせる。雑多で、古い、新しい、不思議なイメージ。
・電車のドアが開き、1人の男性が下車する。男性は、サンディ。電車を降りて、辺りを軽く見回す。
・サンディが、軽く肩をほぐすように、左右に首を傾けて、ほっと息を吐く。
モノローグ:「ガンシティは、、ルナシティを旅立った〈最初の160人〉がこのエウレカに辿り着いて作った旧市街だ」
【ガンシティ市街】
・サンディが、地下からの階段を登っていく。
・路上の階段出口から、サンディが《ガンシティ市街》に出てくる。
《ガンシティ市街》
直径150m厚さ90mの円盤型居住区。回転による遠心力による重力を発生している。外層と呼ばれる1/3Gの火星重力エリアと、2層と呼ばれる1/6Gの月重力エリアがある。
回転方向に向かって、ショッピングモールのような外観の街が続いている。
・サンディが眩しそうに、通りを見渡す。
・幅16mの歩道(モール)が坂道のように真っすぐ続いている。天井の高さは11m、道の両側高さ5mの位置にもデッキ(空中歩道幅4m)があり、1階2階の歩道の両側に雑多な店舗が並んでいる。歩道には、沢山の人が歩いている。
・歩いている人々は、ブラスター達と、工場勤務の作業宇宙服の人たち、そして飲んだくれた男達。店は、酒場か飯屋が多く、昼間から酒を出して営業している。飲食店の間を埋めるように、古着屋・道具屋などが並んでいる。ガヤガヤとした音。酔っ払いが怒鳴るように喋る声。呼び込みの声。酒と料理の匂い。暖簾から漏れる湯気。雑多で、古くて、新しい、不思議なイメージ。
・その人込みの中を、サンディが歩いていく。
・サンディが、3つの両開きの扉が並んでいる事務所の前で立ち止まる。3つの扉は、ぱっと見は木製で、導火線に火の点いた爆薬を背景に、8本の角を持つ竜と、2本の剣が図案化された紋章が彫り込まれている。
・サンディが、ギルド入口をその扉を開く。
【ブラスターギルド受付カウンター】
・ブラスターギルドの室内は、白い壁とローズウッドの家具と柱と腰壁で、古風な内装。奥行14m、幅28mの広い室内。突き当りに天板の高さ1mの受付カウンターが並んでいて、5人の受付担当が業務をしている。全員古風なメイド服。人間族が2人、犬族が2人。
・カウンターの手前は、待合スペースになっていて、様々な形のソファと電子掲示板がランダムに置いてある。掲示板には、現在募集中のクエストが、求人票のように表示されている。若い駆け出し感のあるブラスターの若者が、ソファで座って待っていたり、掲示板を見ていたりする。
・サンディの後ろから入ってきたブラスターが、サンディの斜め前に設置されている受付機にギルドカードを押し付けると、受付機が軽い電子音を立ててランプを瞬かせる。そして、ギルドカードに受付番号が浮かびあがる。
・待合スペースで待っていた若いブラスターのギルドカードが、軽い電子音を鳴らす。ブラスターの若者が、ギルドカードに表示された番号を見てカウンターの方を見る。カウンターで、卓上の電子掲示板に同じ番号が表示されていて、美人の女性受付嬢がニッコリと微笑む。若いブラスターが緊張してカクカクした動きでカウンターに向かう。カウンターで受付嬢に声を掛けられて、頭の先から首元まで真っ赤になる。
・待合スペースの両脇に、それぞれ奥行14m幅7mの飲食スペースがある。片方(左側)は喫茶スペースで、もう片方(右側)は飲食スペース。喫茶・飲食店の女性スタッフも、全員メイド服だが、スカートが膝上高さ。
・サンディが、どうしようかと悩んでいると、後ろから声が掛かる。振り返ると、ローラが立っている。
ローラ:「新入りかい?」
サンディ:「いや、ちょっと勝手が判らなくて」
女性職員:「ギルドカードは持っているのかい?」
サンディ:「いや、持っていない」
ローラ:「そうか、じゃぁ連いておいで」
・ローラが、受付機の「新規」のボタンを押して、受付機から印字されてきた紙を受け取り、サンディに渡す。
ローラ:「この番号が呼ばれたら、同じ番号が表示されたカウンターまで行くんだよ」
サンディ:「ありがとう」
ローラ:「素直なことは良いことさ。長生きの秘訣さ。気張んな」
・ローラが、サンディの肩を叩くと、カウンターの方へ去っていく。
サンディ:「…あれが赤い魔女、…マヌエルの孫か」
・サンディが感慨深く呟くと、カウンターの方から大声が聞こえる。
女性職員:「キャンディ!、アンタ今月実績悪いンだろ? 丁度良いボンボンが新規で来たから、相手しな。ちょっと年イッテるけど、あれは長生きするよ。しっかり育てて働かせて、ガッポリ稼ぎな」
キャンディ:「はい!、三代目」
・サンディが、興ざめしたように呟く。
サンディ:「めっちゃ、適当やん…。ローラ・オーケーリー・デイビス」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
・受付嬢のキャンディが、ニコニコしながら、カウンターの前に立つサンディを見上げる。キャンディは、犬族可愛い小悪魔系で、メイド服を着た小柄な女性。18歳くらいで、受付アルバイト研修中の札を胸に付けている。ノルマが厳しい中、新規顧客なので妙にやる気を満ちた顔をしている。
キャンディ:「ブラスター・ギルドへようこそ。初めての方ですね。本日は、ギルドメンバーへの登録ですね?」
サンディ:「サンデイ・ガルシアだ」
キャンディ:「…大丈夫ですよ。正直、今からブラスターになるには歳がイッテますけど、前例はあるので…」
サンディ:「いや、悪いけど入会じゃなくて」
キャンディ:「え?、新規登録じゃないんですか?」
・キャンディが、手元の受付表を見る。手に持っている受付表には「新規登録相談23番」と書いてある。
サンディ:「いや、それは赤い魔女が誤解して取ってくれてね」
・キャンディのやる気が見るからに落ちる。どうでも良さそうな表情になって、大きなため息をつく。
キャンディ:「はぁ…、ギルドメンバーでない方が、新規登録以外にどんな御用で?」
サンディ:「あ~、申し訳ないんだけど、ギルドマスターに会いたくて」
・キャンディの塩対応が続く。
キャンディ:「ギルドメンバーでも無いのに?」
サンディ:「あぁ、何回か連絡してるんだけど、会って貰えなくて」
キャンディ:「そりゃぁ、そうですよ。ギルドメンバーでも無い人が、ギルドマスターに会えないですよ。よっぽどの事じゃないと」
サンディ:「あぁ…。…よっぽどのことなんだ」
キャンディ:「ですから、諦めてお帰り下…、よっぽどのこと?」
・サンディが、一生懸命眉間に皺を寄せて、重々しい表情を作る。
サンディ:「そうだ。…放っておくと大変なことになる」
・キャンディが、ブツブツと呟く。
キャンディ:「ギルド・メンバーじゃない。新規登録でもない。けど、放っておくと大変な問題…」
・キャンディが、はっ!と思いついた深刻な顔で。
キャンディ:「プライベートの問題…」
・キャンディが勝手に膨らます妄想に、サンディが重々しく頷く。
・キャンディは、ふと正気に戻った顔になって、マニュアル対応に戻る。
キャンディ:「どんな事情があろうとも、ギルド・マスターにはお繋ぎできません」
・サンディが、深く考え込む。凄く悩む。悩んで、思いついたことを大声で口走る。
サンディ:「ヤツは、僕の大叔母を弄ぶのは止めて欲しいんだ!」
・キャンディが、固まる。
キャンディ:「え?」
サンディ:「いくら年上が好きだからって、限度があると思うんだよ! 大叔母も傷ついている。もう、これ以上は…、そっとしておいて欲しいんだ…」
・キャンディが、俯いてブツブツと言い出す。
キャンディ:「どうしよう。マニュアルだと、追い返さなきゃいけないんだけど。本当だったら、エミリー姉さんに荒修行させられる…。荒修行はもう勘弁、二度としたくない…」
・キャンディが、手元の操作盤にエミリーの番号をインプットし、画面に表示されたエミリーに、俯きがちに小声で話かける。
キャンディ:「あっ、エミリー姉さんですか。はい、キャンディです。ちょっとギルマスの浮気を何とかしてくれって言う人が…、はい」
・キャンディが、俯いていた顔をゆっくり上げて、サンディに告げる。
キャンディ:「ギルドマスターと…がお会いになるそうです」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
【ブラスターギルド応接室(受付側)】
・小さな殺風景な部屋。壁に埋め込まれたディスプレイ。その壁にテーブルが付けるようにして置かれ、簡素な椅子が2つある。
ディスプレイに、スティーブンとメアリーが映っている。スティーブンの頬には、赤く手形がついている。サンディが、椅子の1つに座っている。
・スティーブンが、怒りを抑えながら喋りだす。
スティーブン:「どういうつもりだ。ただじゃ済まさんぞ」
【ブラスターギルド応接室(コントロール室側)】
・スティーブン側の応接室。壁のスクリーンに、サンディが映っている。
サンティとエミリーがテーブルに並んで座っている。視線を下に落とすと、テーブルの下で、エミリーの足が、スティーブンの足を踏みつけている。
・スクリーン上のサンディが、エミリーに視線を振る。
サンディ:「家族に関する事なので、第三者は席を外して欲しい」
・テーブルの下で、エミリーの足がスティーブンの足をグリグリと踏みにじる。スティーブンが、エミリーを見るが、エミリーは何処吹く風の表情をしている。
スティーブン:「大丈夫だ。彼女は俺の家族みたいなものだから」
・テーブルの下で、スティーブンの足を踏みにじっていたエミリーの足がピタリと止まる。
スティーブン:「というか、もう家族だな。何の問題もない」
・テーブルの下で、エミリーの足が、スティーブンの足をスリスリと労わるように撫で始める。スティーブンが、信じられないモノを見る目線をエミリーに送るが、エミリーは動じない。
サンディ:「そうか、婚約者か。そんなに親密な関係なら問題ない」
・エミリーの瞳が少しだけ見開く。ちょっとだけ嬉しそう。デスクの裏に埋め込まれているボタンを静かに押す。
・サンディの後ろの扉が開き、キャンディがドアの前で待機していたかのように、お盆を持って部屋に飛び込んでくる。お盆の上には、冷めた紅茶が入ったカップが乗っている。キャンディは、サンディの前に紅茶のカップを置く。少し指が震えている。
キャンディ:「ど、どうぞ」
スティーブン:「どういうつもりだ。《ルーニー》が俺に何の用だ」
《ルーニー》
ルナシティ人の蔑称。
サンディ:「四代目ギルドマスター、スティーブン・オーケリー・デイビス。
ルナシティとエウレカの英雄で、初代ギルドマスターのオーケリー・デイビスの曾孫。で良いか?」
・スティーブンは答えず、目線で話を続けろと促す。
サンディ:「正確には、英雄のルナシティ時代のフルネームはもう少し長い。
マヌエル・ガルシア・オーケリー・デイビスがフルネームだ。
僕の名前は、サンディ・ガルシアと言う。本当は、もう少し長い」
・スティーブンは、無表情のまま何も言わずに話を聞いている。
サンディ:「僕の本当の名前は、サンディ・ガルシア・オーケリー・デイビス。…英雄が、ルナシティに捨ててきた家族の末裔さ。」
【補足】
〈ガンシティ市街内部設定〉
回転方向に幅16mの歩道が続き、歩道の両側に2階建ての店舗(小規模店舗が間口7m、中型店舗が間口14m、両者とも奥行は14m)が営業している。2階の店舗の前には幅4mのデッキ(空中歩道)がが設けられている。1階からデッキ裏までの高さは5m、デッキ自身の厚さが2m、2階から天井まで4mある。所々1階と2階を繋ぐ階段がある。
この14m(店舗)+16m(歩道)+14m(店舗)の組み合わせを「モール」と呼び、ガンシティは回転方向に向かって2つのモールが走っている。主に住宅・行政・医療・学校が固まっている「1モール」と、企業事務所・商店街が集まっている「2モール」がある。
〈ガンシティ物流設定〉
物流は1階歩道の下に搬送システムがあり、トレーに載って配達される。
中小型荷物を輸送する2本の4m幅ルートが、大型の荷物(建築資材など)を輸送する8m幅ルートを挟むようにして地下を走っている。荷物の受取は、中小型荷物は店舗の地下に設けられた受取スペースで行い、大型荷物は歩道の中央に50m毎に搬出口が切られている。例えば、建築資材を運ぶときは、大型のトレーに乗せて運び、歩道中央の搬出口が2つに割れて開いて、リフト式に建築資材が載せたトレーが1階までせり上がるようになっている。
【神沢コメ_承-2_230520】
今話のブラスター・ギルドの受付カウンターでの会話のやりとりですが、ハインライン親父の「夏への扉」のエピソードのオマージュです。私は、ハインライン親父の、頑固で只者ではない感じが大好きです。
「自分の判断を常識に委ねるのではなく、自分の目的に向かって、自分が取れる最善手を取っていく」
それが、結果として突拍子も無い行動に繋がるのが、最高に面白い。
多分、一緒にお酒を飲んだら、最高にメンドクサイ先輩なんでしょうけど。
神沢は、偏屈で一本筋の通っている頑固親父は好きなので、ヨシ!です。
「スターファイター」の序盤とか好きだなぁ。主人公の親父は、ハインラインさんだろうな。絶対。
[記号凡例]
①〖〗 エピソード番号 起承転結に分けて採番する。〖資〗は資料編。
②【】 主に、場所を記載する。
③〈〉 氏名・固有名詞・用語。本文中に説明があることがある。
④《》 氏名・固有名詞・用語の説明。
本文中と資料編「登場人物・用語集」に説明がある。
⑤ ・ 主に、登場人物の動きや表情を記載する。
⑥ ・ アニメで言う背景・ドラマで言うセットの内容を説明する。
⑦ 名前:セリフを記載する。例)ドリー:「こんにちは!」
⑧ 説明:状況を説明する。
⑨[] :神沢メモ他を記載する。
⑩ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ :シーンとしての区切り。
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