〖起-2〗ぺリル号(230806改稿)[神沢コメ-2_230328]

【魔術師の巣】

・《魔術師の巣》と名付けられた約20m四方の部屋。誰も居ない。部屋半分には、リフト(修繕用架台)があり、小型宇宙艇の《ペリル号》が鎮座している。残りの半分は、沢山の剥き出しの部品が置かれた錆の入ったスチール棚、年季の入ったPCが乗ったデスクと椅子(2脚)、2つの支柱に吊るされたハンモックがある。

 部屋のくすんだ壁には、沢山の工具が掛けられたハンキングボード、工程表や、ポスターがピン止めされているコルクボードが貼ってある。

 PPタイルの床の上には、工具箱が置いてあり、上蓋が開けっ放しで、溢れんばかりの工具や、細かな部品、ケーブルが入っている。

 部屋の端っこに床が四角い穴が開いていて、押し上げ戸が乗っている。

 押し上げ戸の上に、「魔術師の巣」と書いてある。

《魔術師の巣》

 ケンノビとドリーの実家が営んでいるジャンク屋〈マヌエル・ジャンク・ショップ〉の備品置き場だった部屋。約80年前にピットに改装されたが、長らく使われておらず、部屋の存在は忘れられていた。ケンノビが10才の時に見つけた。

《ぺリル号》

 ①長さ10m幅4m高さ3.5mの古ぼけた小型宇宙艇〈ポーター〉。

 ②涙型船体だが多角形の平面で構成されたゴツゴツしたシルエット。

 ③白黒のパンダ塗装。白を基調とした船体に、船首とルーフとフロアと船尾が黒。

 ④船体横には、円形の黒いクラスター部が前後に2つ設けられている。円の中には、上下左右中央に噴射口が配置されている。

 ⑤船首は、6連のランプポッドがあり、その下にクラスター噴出口、その噴射口を挟んで左(赤)と右(緑)の航宙灯が配備されている。

 ⑥船尾は、横一文字に丸型のクラスター噴射口が6個並んでおり、その噴射口を挟んで左に赤と右に緑の航宙灯が配備されている。

 ⑦船体の上下左右に、シャークフィン型の航宙灯があり、上が白、下が黄色、左が赤、右が緑になっている。


・ラジオの音楽が流れている。


・ぺリル号が、リフト(修繕用架台)のうえに鎮座している。点検用ハッチが、機体のあちこちに在って、開いたままになっている。点検用ハッチから伸びた何本ものケーブルが、床に自立した点検用機材に繋がっていて、点検用機材のインジケーターが静かに点滅している。


・ラジオが、ぺリル号の点検用ハッチの隣に置かれている。ラジオのスピーカーから、男性アナウンサーの甘い声が流れている。


アナウンサー:「さて、2220年7月10日のお昼、皆さま如何お過ごしでしょうか? 今日も、私トム・ジャーニーがお送りします「昼下がりのエウレカ・ストリーム」。それでは楽しく参りましょう。まず私からリスナーの皆さまにお贈りする1曲目は…」


・ズッズッ…、と何かがズレる音。ラジオから曲が流れる中、部屋の床の押し上げ戸が横にズレる。《ローラ》が、床に開いた四角い穴から、ヌッっと顔を出す。えっちらおっちら、1階から続く梯子を登ってから軽く身体を持ち上げて、PPタイルの床に立つ。磁力靴がPPタイルにカチッと吸い付く。


・《ローラ》が、ヒールの靴音をコツコツ立ててぺリル号に近づいてくる。

《ローラ》

 ドリーとケンノビの義理の母親。スティーブンの実母。45歳女性。身長は170cmで大柄・筋肉質・グラマラスなタイプ。背中まで伸びた赤髪。大きく緩やかにカールしている。顔立ちは、綺麗と言うよりかはハッキリとした印象を受ける。鼻が高く、目と口は大きい。昔はA級の〈ブラスター〉で「赤い魔女」と呼ばれた。〈ブラスター・ギルド〉のギルドマスターを務めていた。現在は現役を引退し、父から受け継いだジャンク屋〈マニエル・ジャンク・ショップ〉を、船乗り相手に営んでいる。


・机の前の壁に貼られたに置かれたコルクボードに、几帳面に手書きで記入された工程表と、ポスターが貼ってある。ポスターには、上段に「恒例 エウレカ・ポーター・レース 2220 8/25開催」と書かれており、中段に2つの人工コロニーに挟まれた火星と、ボロボロのポーターが飛んでいるイラストが描かれている。ポスターの隣には、殴り書きで書かれた「8/25開催日まで 残り30日」のメモが貼ってある。


・ローラが、工程表の前で立ち止まり、足を開いて立って、左腕は胸の前で組むように、右手を顎に当てて、品定めをする様にジッと見つめる。後ろ姿で表情は見せない。


・ローラが、再びぺリル号の方へ歩き出す。


ローラ:「肝心の〈ジェネレーター〉がなけりゃぁ、始まらないじゃないか。どんなに一生懸命やったって、動く訳がない」


アナウンサー:「ペンネーム、ポンコツ穴掘りさんからのお便りです。『今年は、レイラ・サカモトが暗殺されてから60年になります。彼女は亡くなった60年後に生まれ変わった姿を表すと言われていますが、トトさんはどう思いますか?』」


・ローラが、ぺリル号の脇に設置してある足場台の階段を登り、機体の上に置いてあるラジオに近づいていく。


ローラ:「死んだ人間が生き返るもんかい」


・ローラがラジオに手を伸ばす。


・突然、耳障りの悪い音で、鳴り響くアラート音。


アナウンサー:「緊急次元震アラートです。次元震です。皆さま落ち着いてください。震度は4です。震源の深さは3です。この深さですと、次元プレートが重なるエリアには注意が必要です。スカルドラゴンが出現する可能性があります。特に採掘現場では出現する確率が高いので注意してください…」


・ローラが、ラジオの電源を止めて、足場台から急いで降りる。先ほど、入ってきた床の四角い穴の方へ進み、梯子を掴んで、身体を屈伸させるように、身体を折り曲げて、足の先から四角い穴に身体を押し込む。


・魔術師の巣の下の階。ローラの身体が、四角い穴からフワッと降りてきて床に近づくと、足が磁力で床に吸い付くようにカチリと着地する。


・ローラから少し離れた位置に、《ジェイク》が腕を組んで立っている。

《ジェイク》

 ローラの父、ドリーとケンノビとスティーブンの祖父。年齢は70才。頭は剥げて、顎髭をたくわえて、肩と腕は逞しく、指もゴツゴツしていて、ビール腹で、足が短い。眼は細目で、団子鼻で、口はニヤリと笑っていることが多い。


ジェイク:「ローラ。次元震だったな。どこへ行く?」


ローラ:「ギルドの様子を見てくる」


・ローラが急ぎ足で、ジェイクの前を通り過ぎる。ジェイクが、ローラの背中に声を掛ける


ジェイク:「跡目はスティーブンに譲ったんだろ? 任せりゃ良いんじゃねえか?」


ローラ:「ジェィク爺、あんたがアタシに跡目を譲ったときは、3年位毎日来てたじゃないか? こっちはまだ譲って半年も経ってないんだ。なんぼかマシさ」


・ジェイクは、ローラを見送ると、肩を竦めて呟く。


ジェイク:「そりゃ、可愛い娘だからな」


・ジェイクは、ローラが見えなくなるのを確認すると、小声で呟く。


ジェイク:「おっかねぇ、娘だけど」


ローラ:「聞こえてるよ!」


・ジェイク爺が、ローラが出てきた四角い穴を見上げる。


・四角い穴の押し上げ戸の裏には、「秘密基地!」「魔術師の巣」と子供の字で、殴り書きしてある。その下に同じ筆跡で「危険!関係者以外立入禁止」「ドリーとケンノビ」と書いてある。


・ジェイク爺が点検口の蓋の文字を見つめて、優しい微笑みを浮かべてから、呟く。


ジェイク:「時の経つのはあっと言う間だ。 なぁ?、英雄さんよ」



【小惑星内の坑道】

・薄暗い。岩がくり貫かれた高さ5m程度の坑道。無人。


・岩の壁が、ぼうっと青く波打つように光り透明になる。うっすらと2本角の《スカルドラゴン》が見える。

《スカルドラゴン》

 白いドラゴンのシルエット。角の生えた爬虫類の頭、タツノオトシゴのような硬い外骨格に覆われた銅に、小ぶりの両腕と、対照的に逞しい逆関節の脚を持つ。角の数は、1本から8本まで種類があり、数が増えるほど力が強くなる。5本角以上になると、翼のような形の光の粉を発する器官を持っている。

 次元震のときに現れるため、次元の異なる世界の生物と考えられている。


・2本角のスカルドラゴンが、青い波打つ光の中から歩き出して、坑道の中に1歩入り込み、首を左右に振って動き出す。足跡は残らない。スカルドラゴンが出てきた穴は、青い波打つ光が消えると元の岩肌に戻っている。



【小惑星内の坑道】

・坑道内で作業中の作業員。スカルドラゴンの姿は見えない。ヘルメットに鳴り響く警報音。


作業員:「スカルドラゴンが出やがった…」



【ブラスター・ギルド コントロール室】

・横20メートル奥行15メートルの大きな部屋。

 30人弱の人間が慌ただしく働いている。

・ガヤガヤと室内に響く喧騒。話し声、アラート音、大声で報告する声。それに答える声。キーボードを叩く音。足音。椅子を引く音。様々の音…。

・正面奥に大画面が3つ。左が、火星からメインベルトまで含めた広域画面。

 中央が、火星とエウレカ付近の中域画面。右が、エウレカ周辺の狭域画面。

・大画面1つに対して、手前にオペレーター席が5席並んでいる。

 その後ろに、ブラスター待機用の8人席がある。

 更にその後ろに、1人用の指示席がある。


・夫々のオペレーター席では、3人が操作卓を前に忙しく作業している。

 オペレーターの服は、全員揃いの、縦襟、灰色、肩の部分だけ色違いの宇宙服。


・ブラスター待機用の8人席では、5人の武骨な男達が待機している。

 縦襟の作業服兼宇宙服であることは共通しているが、色も形もマチマチ。

共通の白色のベストを羽織っている。

 オペレーターが立ち上がり、《海坊主》ともう1人のリーダーらしき男に話しかける。大画面の一部を指さしながら、会話している。

《海坊主》

 スキンヘッドで一際目立つ大男。年齢は、40代前半。身長は2mを超える。筋骨隆々で、頬に傷跡がある。〈ドリルシップ〉竜神丸のオーナー兼パイロット。ローラが現役のときのチームメンバー。


・部屋の一番後ろに並ぶ3つの指示席。

 中央の椅子には《スティーブン》が座り、左の席には《エミリー》が座る。

《スティーブン》

 ドリーとケンノビの兄。ローラの実子。年齢は28歳。身長175cm。痩せ型・筋肉質。長めの白髪(横と後ろは刈上げ)を後ろで束ねている。甘いマスク。性格も良い。

 ブラスター・ギルドの4代目ギルドマスターだが、親の七光りではなく、実力で勝ち取ったもの。ブラスターのランクはAランク。今は休止中のAランクチーム〈白い狼〉のリーダーであり、海坊主とエミリーはそのメンバー。

 エミリーから受ける好意は嬉しいし、スティーブンもエミリーに好意を持っている。ただ、人族と犬族の種族差があり、エミリーの幸せのためには、エミリーは犬族の男性と結婚した方が良いと思っている。


《エミリー》・ハドソン

 金色の犬族の美女。髪の毛はボブにして、健康的な色気を感じさせる。出来る女性と言った感じ。スティーブンを自分の命よりも愛している。


・コントロール室に、鳴り響く警報音。

 広域画面のメインベルトの一角に赤い点が表示される。

 中域画面が、小惑星と《プラットフォーム》の位置関係を表示。

 狭域画面が、スカルドラゴンが炎を放っている動画を表示。

《プラットフォーム》

 規模の大きい精製プラントで、小惑星からレアメタルを掘削・生産するために必要な採掘者や機械類を収容し、小惑星に接して設置される施設。

 全長1kmの輸送船2隻を1辺500メートルの正方形の甲板で繋いだ双胴船のような形状をしている。甲板上部に塔が連なるような外見のプラント区画が設置され、甲板下部には直径500mの円盤状の住居区画が設置されている。


オペレーターA:「スカルドラゴン確認しました。2本角です。小惑星イシスです。プラットフォーム・マルスが、採掘稼働中です」


・海坊主と4人の屈強な男達がヘルメットを片手にスッと立ち上がる。揃いのベストの背には、「BLASTER」の字、導火線に火の点いた爆薬を背景に、8本の角を持つ竜と、2本の剣が図案化され、一番下に「出偉毘寿」の字が描かれている。


・コントロール室の端にある床に空いた人ひとり通れるほどの穴に向かう、穴の中央には、天井から伸びるポールが床下に伸びている。棒には、1.5メートル毎に、持ち手兼ステップが付いていて一人用の簡易リフトになっている。海坊主がスティーブンに視線を投げて軽く頷き、ステップに足を乗せて階下に消えていく。残り4人も順々に捕まって階下に降りていく。


・エミリーが、後ろを振り向きスティーブンの顔を見る。


スティーブン:「マルス側は?」


エミリー:「シェルターのみです。専属のブラスターは居ません。もって1時間くらいかと…」


オペレーターB:「四代目! マルスより、ブラスター派遣依頼来ました」


スティーブン:「よし。〈紅蓮の牙〉にクエストを伝えてくれ。相手は2本角だが、油断するなとな」


エミリー:「四代目! 了解しました」


・スティーブンが、げんなりした顔で、エミリーに話しかける。


スティーブン:「エミリー、四代目は止めてくれ。呼ぶなら、ギルドマスターか、スティーブンで良いだろう?」


・エミリーが、マイクで紅蓮の牙に連絡を取ろうとしている。視線だけ、スティーブンに向けて艶っぽい微笑みを浮かべる。


スティーブン:「〈紅蓮の牙〉は、Cランク成りたてか。功を焦らなけりゃ良いが」


エミリー:「大丈夫ですよ。海坊主が付いていますし」


・エミリーの席の呼び出し音が鳴る。エミリーは、手が離せない。スティーブンが、通話を取る。


スティーブン:「スティーブンだ。エミリーは手が離せない」


通話の相手:「あっ、四代目ですか。丁度良かった、三代目が…」


・通話の向こうで、ローラが怒鳴っている。


ローラ:「何度言ったら解るんだい。ここはギルドのカウンター、この娘達の仕事場なんだ。他人の仕事場で酒なんか呑んでんじゃないよ。がぶがぶ酒を呑むなら他へ行きな! このボンクラどもめ!」


・スティーブンが手で額を抑える。額には深い縦じわ。深いため息。


スティーブン:「解った。コントロール室へ向かわせろ」


受付嬢:「ありがとうございます。四代目。すぐに行ってもらいます」


・スティーブンが、通話機を見て溜息をつく。


スティーブン;「何とかならねえのか、その呼び方…」



[神沢コメ-2_230328]

 「シーペリル号の冒険」という作品が大好きです。イギリスの湖畔地方の高校1年生3人組が、オンボロの平底船を人力外輪船に改造して、夏休みに川を上る物語です。訳者さんの後書きにありますが、イギリスの夏休みにホームステイに行ったみたいというのは、言い得て妙だと思います。

 自分の興味に正直に真っすぐに生きる少年達と、少しだけ物事が上手く進む世界、そして少年達を温かく見守りさり気なく助ける大人達、イギリスの自然の描写、イギリス人の特徴をコミカルに捉えた描写、憧れます。

 この物語は、元々「シーペリル号の冒険」をお手本として、習作として書いたのが始まりです。

 もう1つ好きな物語があります。小学生の頃読んで、題名も思い出せない物語。

 夏の終わりにグライダーを飛ばすコンテストがあって、そのコンテストに出場するために、小学生2人が秘密基地にしている部屋で1m位の大きさのグライダーを作っています。もうすぐグライダーが出来上がるというタイミングで、小学生2人は若い青年の脱走兵と出会い、彼を秘密基地に匿います。脱走兵と言っても悪人ではなく、ベトナム戦争のような正と悪がはっきりしない戦争で、戦争に行くのが嫌で逃げ出した脱走兵だったと思います。そして、小学生2人は、脱走兵と仲良くなります。脱走兵は結局当局に捕まってしまうのですが、彼が連行されるその時に、小学生2人は脱走兵の名前を大きな声で呼びます。脱走兵がその声に振り返ると、小学生2人が、夏休み中掛けて作ったグライダーを、秘密基地の窓から空に向かって飛ばすのです。そして脱走兵は嬉しそうに眩しそうに、空を飛ぶグライダーを見上げて、2人にさよならと手を振ります。

 この2つの物語の足元にも及びませんが、そんな作品を書いてみたいと思っています。



[改稿点]

・230806改稿

 ①ぺリル号の外観設定。

  元々は、ランチア・ストラトスのイメージだったのですが、

  Prius 24h Le Mans Centennial GR Edition見たら、うわぁ…って。

  うわぁ…、って。好きなんです。『頭文字D』…。特に1~2巻あたり。



[記号凡例]

 ①〖〗 エピソード番号 起承転結に分けて採番する。〖資〗は資料編。

 ②【】 主に、場所を記載する。

 ③〈〉 氏名・固有名詞・用語。本文中に説明があることがある。

 ④《》 氏名・固有名詞・用語の説明。

     本文中と資料編「登場人物・用語集」に説明がある。

 ⑤ ・  主に、登場人物の動きや表情を記載する。

 ⑥ ・  アニメで言う背景・ドラマで言うセットの内容を説明する。

 ⑦ 名前:セリフを記載する。例)ドリー:「こんにちは!」

 ⑧ 説明:状況を説明する。

 ⑨[] :神沢メモ他を記載する。

 ⑩ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ :シーンとしての区切り。

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