間違い

右足に体重をかけ、体を前のめりにし、歩みを進めようとした時


「ミャ〜」


その空気には似つかわしくない、愛らしい鳴き声が聞こえた


体勢を戻しその鳴き声の方向へ顔を向けた


「サナ!?なんでここに?ここは危険だ帰った帰った」


すぐに手でシッシッとサナを追いやった


「ミャ〜」


と鳴き、サナはシッシッとやった方向へUターンしていった




ファイスト森へ入って10分が経った頃だ


足元が悪く、少しでも触れられたら倒れてしまうほどだ、必死に足を一歩一歩と、進めていると、前方に広場のような所が見えた


「あそこで休もう」


草の絨毯が引かれていて休み心地はとても良さそうだ


「よいしょ…ふぅー、はぁ~~」


今までの出来事の疲れが広場で倒れ込んだと同時にどっと来た


「確かに危険そうだな」


聞いていた以上に劣悪な環境にうんざりとしていた


「疲れたなー」


天に仰ぎながらそうつぶやいた




「ブォー!」


森中に響き渡るうめき声のようなものが耳でなんども反響し響く


――いつの間にか寝てしまったようだ


「ハッ!」


その呻き声でバッチリと目が覚めた、仰向けの状態から顔を上げると


眼の前にはツノが生えキバがき出しに迫力満点の前世の熊とは比べ物にはならない熊のような魔物が立っていた


「――ッ」


咄嗟のことで声が出なかった。

ただ目をがん開き驚くことしか出来ない


だんだんと巨大な図体を軽々と持ち上げこちらへ近づいてくる


いきなりでよく分かっていなかったが、ようやく状況を理解した


「ヤベェ!!」


下半身を絨毯へ付き、上半身を足の方向にいる魔物へ向けている状態から、急いで手で思いっ切り体を押し上げ、魔物とは逆の方向へ向かって精一杯逃げる


「はっはっはっ」と、早くなっていく足音と共に吐息が漏れる


後ろからは「ずしんずしん」と、その図体からは考えられない程の速さで迫ってくる



体力の限界が近づいて来た、腕には力が入らず足が重い。体力は前世譲りのようだ、転生後の補正なんてものはない


「ほ、ホントに!やべぇ!」


諦めようとした時


「忘れてた…!」


恐怖でつい逃げてしまったが本来ここに来た理由はそう――


「今こそ能力の使い時!」


手を思い切り広げ、樹木でろくに見えない空へ掲げる


「来い!俺の能力!」


手の平に力を込め空を見つめ、目をつぶった


「うぉ゛ーーーー!」


――何も起こらない


目を開けた――そこには木漏れ日をかき消し、俺の上に覆いかぶさろうとしている魔物の姿があった


絶望を感じた。ここに来るべきではなかった


「――間違えだったなぁ」と

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