貧乏くじ
レペテラ君と今後についての相談をした。ゴレアスが屋敷の中に入れないので、相談場所は庭の家庭菜園の前だ。方針自体はルブルにもゴレアスにも納得させたので、ではこれからどう動こうかというのが今回の相談内容になる。
「ここから一番近い場所にいる魔族が知りたいわね。もちろんこの子たちみたいな妖精ではなく、ゴレアスみたいな守護者のことよ」
四人の風の妖精は、意味もなく飛び回り楽しそうだ。もしこれと出会ったところで難しい話が通じるとは思えない。この子たちは自主的にレペテラ君の傍にいるが、協力を求めるとなれば、説得しなければいけないのは風の守護者だ。
「この近くならば、木の守護者がいるはずだ。王国側にいるから、小娘がここに来るまでに出会っていてもおかしくないのだがな」
「そう。じゃあまずそっちからね。正確な位置は分かるかしら」
「明日には大体割り出してやる」
「頼むわ」
「あの、お姉さん」
「何かしら?」
「僕もついて行きたいです」
強い決意、覚悟、控えめなレペテラ君が普段見せることのない表情が見えて、理の返事が一瞬遅れる。
「ちゃんと協力してもらうなら、これから一緒に頑張るのなら、僕も一緒に行かなきゃいけないと思うんです」
「そ、れは、そうね、そうだけど」
「ええい、何を言い淀んでるのだ! 魔王様、ここは小娘に任せてどっしりと待ちましょうぞ。王たるものあまりフットワークが軽すぎるのも良くありませぬ」
ルブルの説得を応援してしまう日が来るとは思いもしなかった。これで納得してくれるのなら、できれば留守番をしていて欲しい。私はこれまで何度も、聖女様を守り切ることが難しいと思い、この命を投げ出してきている。結果、聖女様がそのあと生きたのかダメだったのかも知らない。
いくら強いと言っても、私の強さは個の強さだ。敵の数が増えれば必ずほころびも出てくる。いざという時のことを考えると二つ返事で受け入れるには事が重すぎた。
「それは違うよ、ルブル。そこで同意を得られないようなら、きっと僕は魔王にふさわしくないんだ。安全な場所で椅子に座って成功するのなら、その椅子に座っているのは僕じゃなくたっていいはずだもの」
ルブルが言葉にならない声を漏らして身を引く。
私はというと、レペテラ君の男のらしさに感動して体を震わしていた。可愛くてかっこいい。とっても素敵。
そうだ。私が好きになる人は、意志が強くて、周りに何を言われても自分の気持ちを貫ける人だ。やっぱりレペテラ君は最高なのだ。
隣でガンッと鉱物のぶつかり合う鈍い音がして、私はハッと現実に戻される。どうやらゴレアスが膝を叩いた音のようだ。
「そうだ。それでこそ王だ。それでこそ魔王様だ。その気概を最初から見せてくれれば、儂だってついて行こうと思えたのだ。儂はようやく心からレペテラ様に臣従することができる」
「ゴレアス、それは半分間違っているわ。王を成長させるのも臣下の仕事よ。半分はあなたが悪い」
王が必要なら、王に守られるのなら、王と共に歩むのなら、唯々諾々と従う臣下ばかりでは困る。
これはゴレアスだけに言ったことではない。私自身にも向けた言葉だ。
守りたいから安全なところに置いておく、というのは庇護者の我がままでしかない。本当に人のことを思うのなら、成長の機会を奪うのは間違っている。危うく間違った決断を下すところだった。
レペテラ君の強い意思と、ゴレアスの言葉に助けられた。
「流石姫。そうであるな。端から儂が傍にいて、儂の思う王たるものの道を説かねばならなかった! これまでのことを伏して詫びたい。この通りだ。姫との約束もあるが、そうではない。真に臣下として仕えることを許していただけないだろうか」
大きな動作で地面に頭をこすりつけたゴレアスを見て、レペテラ君は慌てた様子で視線を彷徨わせて助けを求めてきた。思うままにしたらいい。そう思い私が頷くと、レペテラ君はゴレアスの前に歩み寄って、膝をつく。
「ゴレアス。僕と一緒に頑張ってくれるのなら、とても嬉しいと思うよ」
「ありがたき幸せ。ともにか弱き魔族たちを守って参りましょう。今回の旅にも是非儂を盾として矛として、同行させていただきたい」
「はい、よろしくお願いします」
あ、どさくさに紛れて木の守護者探しについてくる気だ。
まあ、一人より二人の方がレペテラ君のことを守りやすいので、それは悪いことではないのだけれど。しかしそうなると屋敷に一人留守番がいる。
私はあふれ出る笑みを堪えながら、ルブルに向けて口を開いた。
「じゃ、ルブルは留守番ね」
「こけ!? なぜだ! 当然私が同行するべきだろう!!」
「屋敷の管理、妖精達の護衛。それにあなたの情報は、ここに来る鳥から得ているんでしょう? 緊急事態があったら、ちゃんと知らせに来てもらわないと」
「な、な、なぜ私が鳥たちから情報を得ているの知っている!」
「そりゃ見てればわかるわよ。コケコケ鳥と話しているじゃない」
「く、し、しかし、それは魔王様の決めること! 私はお前に命令されるいわれはない!」
「あ、あの、ルブル……。その、そういうことだから、悪いのだけど、今回は留守番をお願いできますか……?」
ルブルが口をあんぐりと開けたまま固まった。ざまぁない。
「あ、あの! ごめんなさい、ルブルなら頼っても大丈夫かと思って……。この屋敷のこともよくわかっているし、適任かなって」
「し、仕方ありませぬな……。魔王様がそこまでおっしゃるのなら、今回は! 私が屋敷の守りにつくとしましょう」
レペテラ君のフォローに復活したルブルが背筋をしゃんと伸ばして、留守番を引き受けた。それを見てすぐ私とゴレアスは立ち上がり、数日外で過ごすための準備を始める。
「ふむ、では留守番しっかりな、ルブルよ」
「ええ、あなたにお似合いの仕事よ」
「ええいやかましい! 私は魔王様と話しておるのだ!!」
さぁ、新たな下僕を得るための小旅行。
レペテラ君と初めてお出かけ。
私は半分遠足気分で心を躍らせるのだった。
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