第10話

 対サイクロプス戦を想定した皮膚の硬い大型のボスが出る階層となると地下45階のベヒーモス、38階のアイアンワーム、17階のアーマーマンモスだろうか。


 ベヒーモスは手ごわくてテストどころではなくなるから却下。アイアンワームは鉄製の巨大ミミズで見た目が気持ち悪いから却下。

 となると消去法でアーマーマンモス一択だ。


 冒険者登録は済んでいるかとハットリに確認すると、冒険者協会でその手続きをした際に受付で最強のパーティーはどこかと尋ねてうちを教えてもらったらしい。


 こんな怪しい人、紹介しないでいただきたいわっ!


「地下17階にしましょう」


 ダンジョンの入り口で地下17階の地図を渡す。

「その地図、1000メルだから。後であなたの稼ぎから差っ引くわね」


「待てい! なんじゃそりゃ、ぼったくりか!」


 ぼったくりだなんて人聞きが悪い。

 このダンジョンマップの販売は、我がパーティーの大きな収入源のひとつだ。

 強力な武器・防具などの装備品の購入や修理、研磨にかかる費用は相当な金額で、お金メルがいくらあっても足りないのが現状なのだから。


 ほかにも地図を販売しているパーティーはあるけれど、ロイ印の地図は宝箱の位置、罠の位置と迂回方法、出現する魔物のステータスと弱点、隠し部屋、戦利品一覧、ワンポイントアドバイスを載せている緻密かつ完璧な地図で、マーシェスダンジョン地図の作成に関してはどこにも負けないという自負がある。

 これで安全にダンジョン内を冒険できるのなら1000メルでも安いぐらいだ。


「行きたくないならここで解散でもいいわよ。地図、返して」

「行きます! 行きたいです!」


 ここでモタモタしている場合ではない。

 夕食の時間になったらメイドが図書室まで呼びに来るから、それまでには戻らないといけない。


 ダンジョンの受付で登録カードの裏面に書かれているパーティー名を提示する。

「三名様ですね、お気をつけていってらっしゃいませ」

 受付嬢に笑顔で見送られた。

 ダンジョンの入場の際にはその都度入場料を支払わないといけないのだが、常連パーティーの場合はパーティー資金を貯めている専用口座があり、そこから自動振替されるシステムになっている。


「ここから右に行くとレジャー施設で、私たちが行くのはこっち」

 ハットリに説明しながら左側を指さす。


 小さな部屋の奥、壁のニッチに置かれている水晶玉にカードをかざしながら「地下17階へ」と告げると床全体が青白く光り、次の瞬間、わたしたち三人は地下17階の入り口に到着していた。


「うわ、すっげ」

 ハットリがキョロキョロしながら驚いている。


 ダンジョン初体験者は必ずこういう反応をする。

 あの小部屋は転送装置になっていて、カードに記録されている階層ならどこへでもパーティーごと転送してくれるのだ。


 最前線パーティーへの加入はこういった利点があるため加入希望者は後を絶たないのだが、ロイパーティーは来るもの拒まずというスタイルではなく、即戦力・少数精鋭がモットーだ。

 ただ、ロイさんがいなくなってわたしが実質的なリーダーを務めるようになると、ロイさんを信奉していた数名がほかのパーティーに移籍し、冒険者を引退した人や進退を明らかにせず籍を残したままフェイドアウトしている人もいる。

 しかもロイさんは一人で十人分ぐいらいの戦力だったのだから、我がパーティーの実際の戦力はガタ落ちだ。

 そんなパーティーの内情から考えると、選り好みなどせずやる気があって見込みのありそうな人材をゼロから育成していくことも考えなくてはいけないが、そこまで手が回らない。


「さてと、お手並み拝見よ。頑張ってね、ハットリさん」

 わたしたちは地下17階の奥へと足を踏み出した。



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