第9話

「結論から言うと、不合格です」


 ハットリと名乗った若い男は、うちのパーティーの加入希望者だった。


 昼前に酒場を訪ねてきて、ロイパーティーに加入させてほしいとビアンカさんに申し出たらしい。

 ビアンカさんはハットリに、リーダーのロイさんは現在長期不在で、サブリーダーのヴィー(わたしのことだ)は昼過ぎにならないと来ないから自分の一存では決められない、二階の部屋がパーティーの拠点だからそこでヴィーが来るまで待つ気があるのならどうぞと言ったようだ。


 藍色のほっかむりに、それと同じ生地の、このあたりでは見かけない変わった服装のハットリは、幼い頃からダンジョンに憧れ続けて極東からわざわざやって来たとのことだった。

 何年もかけてこちらの言語を習得したとかでコミュニケーションに問題はない。


 どうしてうちのパーティーに?と尋ねると

「最前線を突っ走る最強パーティーだと聞いたから」

と答えた。


 そして床に座ると両手をついて深々と頭を下げた。

「サブリーダーのあなたも弱そうなこむ……ゴホンゴホン」


 さては、小娘って言いそうになったわね?


「あんな殺人的な土遁の術が使えるとは、相当な手練れだとお見受けいたします。先ほどは失礼な振る舞いをして申し訳ありませんでした。土下座してお詫びします。俺は忍者です。どうかパーティーの一員にしていただけないでしょうか」


 ドトン? ドゲザ? ニンジャ?

 相当な手練れだと褒めてもらったのは光栄だけど、聞きなれない言葉だらけで話にならないわ。


 だから回りくどい言い方をせずにスバリ「不合格です」と告げる。


 なぜだと食い下がるハットリに、これから仲間になるかもしれないメンバーの武器を勝手に触るなどもっての外であることと、先ほどの逃げ足の速さから察するにニンジャとは動きの素早いクラスだと判断したためだと説明する。


「敏捷性よりも火力が欲しいんです。ですから、そういう人材を募集しているパーティーを当たってください。お帰りはあちらです」


 攻略は最下層のボス部屋の手前まで進んでいる。

 ボスは単眼の巨人、サイクロプスだということが判明しているため、火力がない上にメンバーの支援もできないクラスはお呼びでない。

 敏捷性重視で重装備が着けられない人は、ボスの大斧の一撃で倒れてしまう恐れがある。まして、慣れていない人など論外だ。


「待ってくれ! 俺の実力を実戦形式で見てから判断してもらえないだろうか。大剣を触ったことは心底反省してる。鞘に入っている状態でも異彩を放っている様子につい手で触れてみたくなったんだ。もう二度としません。どうかそんなに冷たく拒絶せずにチャンスをください!」


 冷たく拒絶——その言葉で旦那様に拒絶された初夜を思い出し、少し胸がざわついた。


「それに俺は火力もある。巨大手裏剣も出せるし火遁の術だって使える!」


 シュリケンにカトン、もうわからない言葉だらけで実際に目で見て確認するしかなさそうだ。


「わかったわ、では今からダンジョンでハットリさんの実力を見せてもらいます。それでいいかしら?」

「やった!」


「あらあ、楽しそうね。わたしもご一緒していいかしら」


 ビアンカさんが手を叩いて喜び、三人で早速ダンジョンに行くこととなった。


 ハットリのせいで夕食の時間まであと二時間ほどしかない。急がねば。



 

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