第11話

「合格です。先程は、とっとと帰れ的なことを言ってごめんなさい」


 地下17階のテレポート水晶から地上に戻り、ダンジョンを出たところでハットリにパーティー加入テストの結果を告げた。


「え……ほんと?」

 ここで結果を告げられるのが予想外だったのか、結果自体が予想外だったのかは知らないが、ハットリが驚いている。

「冗談を言うほど暇じゃないので」


 夕食の時間が迫ってるんだってば!


「飛び道具と炎の陽動攻撃、戦術、俊敏性、視野の広さ、命中の正確性は申し分ないし、ボスを一撃で仕留めたのは見事でした。防御力がペラペラの紙装甲なのは気がかりですが、大きな相手を前にしても怯むことのない度胸があるようなので目を瞑ります」


 ボスのアーマーマンモスの弱点は眉間と頸椎なのだが、眉間は鉄鋼の額宛てに守られているし頸椎は地面からでは狙いにくい。

 大剣使いなどの近接火力クラスだとアーマーブレイクを発動させ、強引に額宛ての上から叩き斬るという火力ごり押しで倒すわけだが、そこまでの火力がないと思われるニンジャがどう戦うのか。

 それが我がパーティーの加入の是非を判定するポイントだった。


 ハットリの扱う手裏剣という薄い星型の飛び道具や口から吐き出す炎は、ダメージを与える攻撃というよりは陽動効果の方が大きくて、相手が気を逸らしているうちに懐に飛び込んでクナイというナイフのような武器を急所に突き刺すという独特な戦術でザコのエレファントたちを倒していった。


 ボスのアーマーマンモスに対しては、まるで意志を持っているかのようにボスの目の前を飛び交う手裏剣で集中力を削いだと思ったら突然巨大な手裏剣が現れた。なんとそれはハットリ自身で、グルグルと回転しながら上背のあるボスの頭上まで飛んで行くと、その勢いのままボスの頸椎に長いクナイを深く叩きこんで仕留めたのだ。


 戦い慣れていてよく訓練されているという印象を受けただけでなく、驚くべき発見があった。

 このマーシェスダンジョン内において冒険者は浮遊魔法が一切使えない仕様になっているのだ。

 にもかかわらず、巨大手裏剣になったハットリは明らかに宙を飛んでいた。魔法ではなく遠心力ということなのだろうか。

 これは何かの役に立つに違いない。


「いやあ、ビアンカさんのヒールと、サブリーダーの足止めのおかげです。ありがとうございます」


 戦闘はハットリがひとりで行っていたものの、万が一を想定してビアンカさんがずっと回復魔法ヒールを詠唱し続けていたし、わたしはゾウの動きが鈍くなるように足元に泥の沼を発生させていたのだが、そのことにもちゃんと気づいていたらしい。


「ということで、パーティーの加入手続きは明日ね。わたし、そろそろ夕食の時間だから帰ります! お疲れ様!」


「あら、わたしも開店の時間だわ。ハットリさん、急いで戻りますよ」

 おっとりとした声とは裏腹に、ビアンカさんがものすごい速さで駆け出した。


「え? え? 夕食?」

 ハットリがビアンカさんの走っていった方向とわたしを見比べて戸惑っている。

 わたしはすでに膝まで土の中に埋まった状態で、土から土への転移が始まっていた。


「わたし人妻なので夕食までに戻らないといけないの。じゃあまた明日」

 ヒラヒラと手を振る。


 転移が完了する直前に、「人妻!?」という間抜けな大声が聞こえた。



 ハットリの加入で、士気の落ちたパーティーが活気づくといいのだけれど。

 そんなことを考えているうちにマーシェス家の屋敷の図書室に到着し、ロッキングチェアに座る身代わりの土人形の肩に手を置いた。

「お疲れ様」

 土人形は形を失ってただの土塊に戻る。

 それを観葉植物の鉢に戻すとロッキングチェアに座って本を広げ、ゆらゆら揺れながらメイドの到着を待ったのだった。



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