牧野つばさ物語

 恋に恋して十六年。

 しつこいとかうざいとか、気持ち押し付けすぎとかよく言われるのよね。

 でも、誰かを思いっきり好きになってる時に、そんな、周りのことなんか気にしていられるわけないわっ。

 今、この瞬間は二度と戻らないんだもの。

 命短し恋せよ乙女、っていうじゃない!


 私、多分標準より可愛い。

 スタイルも悪くないと思う。

 だから、私に釣り合う素敵な人とカレカノになりたいって、変な風にハードル上げちゃってるところがある。もともと面食いってこともあるんだけど。

 そのせいか、なかなか彼氏が出来ないんだよねぇ……。


 そうよ!

 こんな出会いを待ってたの。

 突然の転校生。イケメン。まさに一目惚れだったわ! 運命って言ってもいいくらい!

 なのに……なんで彼ってば、あんな地味な子に告白してるわけ!? 私の方がよっぽど可愛いし、お似合いのカップルになると思うんだけど?


 私、恋に関しては手段を択ばないタイプなの。だからつまんない裏工作とかもしちゃうし、一切遠慮はしない。彼に近付くためだったらなんだってするわ! 文化祭のお芝居も、中間テストの勉強会も、全部、彼に近付きたいから。私を好きになってほしいから!

 もっと私を見てよ。

 私はいつだってここにいるのに!


 でも…ダメね。ダメだった。

 彼が好きなのは私じゃない。

 そんなの最初から知ってたけど、でも、諦めたくなかった。なんで私じゃダメなの? あの子より私の方が可愛いし、私はあの子と違ってあなたをこんなに好きなのに。

私の思いは、どこへ行けばいいんだろう。

誰にも受け取ってもらえないまま、この思いは消えるだけなのかな……。


「牧野さんは頑張ってたよ! 誰よりも一番頑張ってた! 俺はちゃんと見てたよ?」

 ……初めてだったんだ。

 私のこと、ちゃんと見ててくれた人。

 行き過ぎた私の行動を、まさかこんな風に肯定してくれる人がいるなんて。

 私、嬉しかった。

 私を私のまま、受け入れてくれて。

 ありがとう、信吾。




「海、最高~!」

 つばさは両手を広げて海に向かって叫んだ。遅れてきた信吾が荷物を砂浜に降ろす。

「つばさ、少しは手伝えよ」

 バスから降りるや否や、砂浜へと走り出す翼を、両手に荷物を抱えて追いかけてきたのだ。サッカー部だからって、さすがにこれはしんどい。

「あはは、手伝ってほしかったら私を捕まえてごらんなさーい」

 そう言って、再び浜辺を走り出す。信吾は荷物をそのままに、靴を脱ぎ捨てた。

「現役サッカー部を舐めんなよ」

 一気に駆け出す。

「あはは、誰か私を好きって言ってよー!」

 つばさが叫ぶと、信吾が答える。

「俺が言う! つばさ、好きだー!」

 そしてそのままタックル。二人はもつれ合うように浜辺に転がった。

「馬鹿、砂だらけじゃないっ」

 むくれるつばさの頭を撫でつけ、信吾は笑った。それからおもむろに真面目な顔をすると、じっとつばさの目を見て、言った。

「俺、つばさのこと大好きだ」

「私も!」

 ぎゅっと彼の首にしがみつく。

 恋をしている!

 私を、私のまま受け止めてくれる人と、私は恋をしている!


 私、牧野つばさ。

 今、最高にハッピーです!

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