第35話 読めない本②

「やっぱり何かあった?」


 押入れに閉まったBL本のことを考えていたら、彩香がじっとこっちを見てそう言った。


 ……バレちゃうよね。

 だってこっちから話をしたことなかったもん。


「ごめん彩香、あの本のことは――」

「やっぱりあの人と何かあったんでしょ!」

「え?」


 違った? と瞳で訴えてくる綾香に驚いて、素っ頓狂な声を出してしまう。


 そっちだったかぁ。

 あの人との話をしてたもんね。

 普通はそっちのこと考えるよね。

 よし、本のことは気づかれてなかったってことだ。


 それでも、応援してくれた綾香にあの人に彼女がいたってことを話したら――


「もしかして、あの人に彼女がいたとか?」

「へ?」


 正解を導き出していた綾香に思わず、椅子から落ちそうになった。


「いや、言ってみただけだけど……もしかして大当たりだった?」


 今日の彩香はやけに鋭い。

 お弁当を貰いすぎて、対策を練ってきたとか? 

 いや、彩香だからそんなことはないはず! 

 だってあの彩香だもん。ないよね?

 だけど、これで話しやすくはなった。


「うん、あの人とはちょっとね?」

「ほんとに彼女がいたの?」


 また、クラスの皆に聞こえそうなくらい大声で話しそうになった綾香の口を押さえながら、私は小声であのときのことを伝えることにした。


「そう、あの人に彼女がいて、あの人と彼女さんがじゃれ合いながら、間接キスしてたんだよ」

「間接キス?」

「そう、間接キス! 絶対彼女さんだよね」

「ほんとに言ってるの、唯葉ちゃん!」


 綾香が首を思いっきり振って、私の手を払いながらそう言ってくる。

 間接キスだよ?

 恋人とか仲いい人同士でしかしないよ!


「ほんとって、だって、間接――」

「唯葉ちゃん、それ彼女さんじゃないかもだよ?」

「…………?」


 いま綾香になんて言われた?

 彼女さんじゃない? だって、そんなこと――


「そんな――」

「唯葉ちゃん。間接キスなんて、兄妹でも、仲いい人でもするんだから、同じクラスの人か妹さんだったんじゃない?」


 彼女さんだったかもしれないけど、といいながらドヤ顔する綾香に、そっと頷く。


「そうだよね」


 なんで気づかなかったんだろう。

 幸太郎や海ともしたことがあるのに。


「そうだよ、まだ諦めちゃダメだよ、唯葉ちゃん!」

「ありがとう、彩香」


 迷ってたけど、彩香に話してよかったな。

 今度も相談に――


「そういえば、唯葉ちゃん。あの本のことって」

「……あ」


 放課後、誰もいなくなった教室で、彩香にBⅬ本をたくさん読まされた。

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