第33話 そして誰も②

「やっぱり、何か隠してるだろ」


 彼女のことを考えて数秒、恭一が呆れた顔をしていた。


「まぁ、バレてるよな」

「何かあったか? 今日は聞いてやるぞ」


 恭一が相談を受けるなんて珍しい。明日は雨でも降るんだろうか。


「面倒事は嫌いだが、あいつに言われてるからな」


 恭一は「少し寒気が」と震えていた。

 綾香さんが何か言っていたのだろうか。

 こっちにとっては都合がいい。

 今回は罠を仕掛けずに済みそうだ。


「じゃあ聞くけど、恭一って綾香さんに彼氏がいたって聞いたら、どうする?」

「なにいってんの、お前?」


 ○すぞ、とでも言いたそうな恭一がこちらを見ていた。

 謝ろうと思ったが既に今日の昼飯はと呟いている。

 これはもうおごり確定だな。


「いや、違くて。前、女の子と話ができたって言っただろ? その子に彼氏がいて――」

「彼氏がいた⁉」


 恭一が教室中に聞こえるくらいの大声で叫んだ。

 周りの子たちが心配や驚きといった表情でこっちを見てくる。


 クラス委員の秋山が近づいてきて、「何があった⁉」と騒いでいたが、「何もない」と追い返した。


「いや、悪い。彼氏がいたなんて聞いてなかったからな」


 少し落ち着いた様子の恭一が、机の上に肘をつけながら、組んだ指をあごにあてた。


 誰に聞いたかは知らないけれど、聞いたらまた何かを驕ることになるかもしれない。


「それにしても彼氏がいたか、残念だったな」

「残念どころじゃない。せっかく話ができたんだぞ? それで夏休み開けたら彼氏がいたんだよ」

「それ、嘘じゃないよな?」

「嘘なんか吐けるかよ」


 この目で、高身長なイケメン彼氏に寄りかかっているのを見たんだ、間違えようがない。


「そうか、ほんとにいたんだな。じゃあ」

「じゃあ?」

「諦めろ!」


 恭一は立ち上がって、きっぱりとそう断言した。


「諦めろ? 前といってることが――」

「違うに決まってんだろ。彼氏がいたんだったら、諦めて次の恋に進んだ方がいいぞ? それじゃ」


 どこかへ行こうとする恭一の腕を俺はすぐに掴んだ。

 こういう面倒事が起きた時、恭一はすぐに教室から出ていく。

 今回も逃がすわけにはいかない!


「いや、彼氏のことはそうだけど、今度駅で彼女とあったら気まず――」

「そんなの知るか」


 恭一が俺の手を強引に振りほどく。

「は? さっきは聞いてやるって――」

「事情が変わった。授業の用意もしてねぇし、それじゃ」

「それでも――」


 俺の言葉を無視して、恭一は教室を出ていった。


「……どうすればいいんだよ」


 前にもこんなことがあった気がする。

 彼氏がいたなんて、俺も聞いてないよ。

 はぁ、とため息をつき、授業の準備を始めた。


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