依頼内容

「探すねぇ…迷子か?」

「……い、いえそういうわけでは…」

 聖は両手をぎゅっと握り、俯きがちに答える。肩が少し震えていた。

 煙介と桐子は顔を見合わせるも聖のただならない雰囲気を感じ取る。

「行方不明とか?」

 桐子はスマホの画面を見ながらそう尋ねた。

「この子、勇太ゆうたっていいます。私と勇太は孤児院で一緒に育ちました。血は繋がってないんですけど、本当の姉弟のように過ごしてたんです。ある日、勇太を引き取ると言う人が現れたんです。勇太と離れるのは嫌だったけど里親がいた方があの子の為だと思って我慢してたんです。…それで、その…」

 そこまで話して聖は口ごもった。この先を話してしまうと追い出されるんじゃないかと思った。事実、この草刈相談所を訪ねるまでに色んな探偵事務所などに行ったが、依頼内容を聞くと断られたり、いち学生がとても払えない法外な値段を吹っかけてきたりとまともに相手にしてくれなかった。

(ここなら仕事がなくて困ってるからやってくれるとか聞いたけど、大丈夫かな…。なんか頼りなさそう…)

 目の前の男はシャツは皺だらけ、整ってない髪と髭、おまけに綺麗とはいえない事務所だ。仮に引き受けてくれたとしてもちゃんと仕事をしてくれるのか聖は不安だった。

 帰ろうか…。このワードが頭によぎるが慌てて振り払う。もうここしかないのだ。聖は煙介に向き直り、ぐっと目を見た。


「三日前にあった研究所の爆発事故って分かりますか」

「…なんだっけ?」

「あんたさっきテレビ点けてたでしょ?そのニュースでやってたじゃない、能力者による事件って」

「あー…?」

 煙介は首を傾げる。ピンときていないようだ。桐子はハァとため息をつく。

「その能力者っていわれてるのが勇太なんです。私、現場で見たんです。勇太が、そこから走り去っていくのを」

「…てことは犯人の弟を捕まえろってことか」

「違います!!」

 煙介の言葉に聖はテーブルを叩き強く否定した。煙介と桐子が目を丸くしていると、聖はばつが悪そうにソファに座りなおす。

「勇太は無能力者なんです。あんな爆発、起こせるわけないんです…。だから、犯人なんかじゃ…」


 煙介は近くにあったリモコンでテレビを点ける。ちょうどその爆破事故の映像が映し出されていた。

 防犯カメラや野次馬が撮影した映像がかわるがわるに公開されていた。

『こちらに映っている少年が、今回の事故を引き起こしたのではといわれております』

 アナウンサーが拡大された映像を指している。そこには小柄な少年が背を向けて去っていく様子が映っていた。

『まだこの近くに潜伏している可能性があります。付近の皆さんは十分に注意してください』


「今のあの子は変なんです。能力なんて使えないはずなのに…、お願いしますっ!勇太を見つけてください」

 聖の目には涙が浮かんでいた。悲痛な叫びともとれる声だった。

「どうすんの煙介?」

「………」煙介はニュースを見ながらコーヒーを一口啜る。


『速報です。先ほどお伝えした少年の目撃情報が新たに判明しましたので、お伝えします』

 しばしの沈黙をアナウンサーの声が破る。勇太の目撃情報があった地区と町の名前を読み上げていく。

「近いね。うちのビルに」

「あぁ」

「…っ勇太!」

「あっ、ちょっと!?」

 聖は血相を変えて桐子の制止も聞かずに事務所を飛び出した。

「ほら煙介っ。さっさと追いかけな!」

 桐子は煙介を強引に立たせ、尻を蹴っ飛ばす。

「いや、俺はまだやると決めたわけじゃ…」

「金なし男が何言ってんだ、それにあの子達が危ない目に遭ってんの見て見ぬふりするってのかい!?」

 煙介の脳裏に写真の勇太と涙を浮かべる聖の顔が思い浮かぶ。

「…だぁっ、くそ!」

 勇太はジャケットは掴み、袖を通しながら事務所の玄関に向かう。

「煙介っ忘れもの」

 桐子が煙介に向かって一つの黒いケースを投げ渡す。カードケースほどのサイズで5㎝程の厚みがある。

 煙介はそれを受け取ると、ベルトのサイドバックルに取り付け、事務所を飛び出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る