二部第17話 変態、アメリカン変態にウザ絡まれ、オワタ

「いやあ! 盛り上がったあああ! なあ、HENTAI!?」


 流暢な日本語で俺に話しかけてくる金髪グラマラス美女、エマ・ゴールドバーグ。

 アメリカでは【歌姫】として、めっちゃ売れてて、その上、【歌う英雄】として冒険者としても活躍している超有名人だ。


 そんな超有名人に呼ばれ、ステージに上がった俺達。

 流石のゲスイケメン壱星も、国際問題は怖かったのかじっと睨みつけているだけだった。

 そして、その後といえば、地獄だった。


『ああ、かわいいガールズはおもてなしするから袖へどうぞ。お友達も待ってるよ』


 ステージ袖に鈩君がいる。そうか、鈩君が呼んできてくれたのか。流石、【神託】持ち。

 確かに、最も穏便に済む方法だっただろう。

 ただし。


『へーい! みんな! コイツ知ってる!? HENTAI勇者のナツキだよ!』


 俺のメンタルを除く。

 エマが嬉しそうに俺の事をHENTAIHENTAI言ってますわ。そして、HENTAIで盛り上がるオーディエンス。盛り上がんな!

 っていうか、勇者候補、な! 間違えないでね!


 前回の大発生以降、俺の知名度は爆上がりだったが、この時本当に実感した。俺の固有スキルが【変態】だとみんな知っているんだなと。それを隣でエマは嬉しそうに頷いている。


『よおおし! 宴も竹馬ということで次の曲行こうか!』


 宴もたけなわ、な。

 と思っていたら、竹馬に乗って歌い出した。マジかよ!


『あっはっはっは! それじゃあ、ジャパニーズスタイルで一曲お届けしようか!』


 その後、エマは竹馬に乗りながらメッチャ美声を聞かせていた。なんでだよ。

 その上で、コール&レスポンスでHENTAIを連呼させてた。もぅまぢさぃあく……。

 そんで、めっちゃステージ袖で秋菜がにらんでるんだけどぉ……まぢさぃあく……。

 あのぼんきゅぼん女が悪いんだよ……俺じゃないよ……。


『HE~NTAI! HE~NTAI!』


 やめてよ! もう夏輝のライフポイントはゼロよ!

 そして、HENTAIコールで大盛り上がりしたステージ後、俺達は楽屋に連れていかれた。

 エマの正面に俺、その両サイドに黒服のごっついアメリカンSPがいる。怖いんですけど。


「夏輝、何か飲む?」


 エマがそんな事を聞いてくる。本当に流暢な日本語で感動する。あの時はまだたどたどしかったのに、やっぱ、天才っているんだな。


「ああ、なんでもいいよ」

「おっけ、青汁とせんぶり茶とデスソースとどれがいい?」

「なんで、バラエティ罰ゲームドリンクしか選択肢にないんだよ! お前ものめよ!」

「おっけ、じゃあ、せんぶり茶な」


 そう言って俺にお茶を渡しゴクゴク飲みだすエマ。

 俺は、エマの美味しそうに飲む姿を見ながらせんぶり茶を少しだけ口に含む。


「……ぼげえええええええええええええ!」

「に、兄さん!」


 慌てて秋菜がやってくるが、俺が吐き出したせんぶり茶を見て、立ち止まる。

 いつの間にかSP達も逃げている。いや、仕事しろ、SP。


「いっひゃっひゃ! ぼげええって! ナツキ! 面白過ぎる! よっしゃ、デスソースもおまけしよう!」

「やめぶべええええええ!」

「ぶべええええって! そーんな大層なものかよ」


 そう言ってエマはごくごく飲んでいく。

 そう、この女は正真正銘の狂人だ。

 狂った女神と某掲示板では呼ばれている彼女は、とにかく奇行が多く絶えず話題を振りまいていた。そして、それが彼女にとって、普通だから大変なのだ。

 その奇行のせいで、俺と彼女は出会ってしまい、こうやって見つかってしまった。


「本当に、久しぶりだね、クレイジークラウン」

「俺は、お前に捕まりたくなかったよ、クレイジープリンセス」


 そう、コイツも狂気の仮面道化クレイジークラウンのファンだ。

 そして、勝手にクレイジーファミリーと名乗り仲間意識を持っている。


「お前も俺に辿り着いちゃったかー」

「あはははは! ずっと探してたからね! 狂気の仮面道化捜索チーム、その名も、結成されたら俺SUGEEEEな調査能力に目覚めて変態見つけた件チームまで作って」


 相変わらず狂ってる。

 なんだそのテンプレラノベタイトルみたいなチーム名は。っていうか、名前が長い!

 っていうか、調査隊まで作ってたのかよ。よく見つからなかったな。


「いやあ、まさかこんなに見つからないと思わなかったよ。SNSで見つけたのも偶然だったしね。ナツキのとなりのコードネームチクワもカマボコもちなまこになって探していたのにねえ」


 血眼、な。なんだ、その海中で踏んだら真っ赤な液体をぶしゃーっとしそうなナマモノは。

 というか、それでか。両側のSPの圧がすごい。この人たちの湿度で喉が潤いそうな位だ。

 いや、コードネームネーミングセンスよ。なんだ、チクワとカマボコって、日本の友達になんとかだってばよっていう忍者でもいるのか。


「でも、まあ、助かったよ」

「んあ? ああ、あのお坊ちゃんか。黒の勇者の息子なんだっけ? めんどくさそーだったねえ。……そこでなんだけどさ、ねえ、ナツキ。アメリカに来ない?」

「は?」


 突然、エマがそんなことを言い出す。


「【HEROES】。勿論、ナツキも知ってるでしょ? アタシも所属しているアメリカ最強の冒険者チーム。アタシ達はナツキを受け入れる準備が出来ている。もし、ナツキが頷いてくれたら、アタシと一緒にすぐにでもアメリカに飛べるわ」

「ちょ、ちょっと、何勝手な事言ってるの!?」

「そ、そうよ! くれくら様は日本の勇者候補なんやきん!」


 上田さんと東江さんが慌てて身を乗り出してくるがチクワとカマボコが一瞬で移動し、二人をけん制する。やっぱ相当な実力者だよな、この二人も。だからさ、チクワとカマボコはやめてあげて!

 エマは、二人をちらりと見ると、つまらなさそうに溜息を吐く。


「日本の勇者候補だから何? 日本の勇者候補なんて大したことないわ」

「な……!」

「正確に言えば、日本の与える称号なんてただの名前に過ぎない。そうでしょ? ただただ行動を縛られ、地位を与えられ、権力争いの道具にされる。しかも、同じ勇者候補であっても、さっきみたいに親が偉い方がふんぞり返ることが出来る。何も夢のない冠……けど、アメリカは違うわ。夢がある! ヒーローになれば、実力があれば、金も名声も手に入るの! そして、面倒なしがらみもあたし達ならぶっ潰せる! ナツキは、世界にはたく存在なのよ!」


 はばたく、な。

 確かに、日本の勇者システムには歪みはある。アメリカに比べ色々と面倒な事は多い。

 俺のような変態というレッテルの人間も受け入れやすい環境だろう。

 だけど、


「悪いな、エマ。俺はアメリカには行かない」

「……なんで?」


 めっちゃガン見してくるチクワとカマボコから逃げ、俺はアイツのところに向かう。

 こういう時は、一生懸命心の声に蓋をしているアイツの所に。


「兄さん……?」


 俺は、たった一人の妹の隣に立つ。


「俺は、俺の大切な家族がいる日本からは離れない……。それに、どんな場所であったとしてもここが故郷なんだ」


 そう、俺みたいなのはそんな大層な理由で戦えるほど立派じゃない。

 ヒーローなんてガラじゃない。

 俺がそれでも戦えるのは、家族がいるから。母さん、姉さん、秋菜、そして、ついでに、父さん……がいるからだ。

 申し訳ないが、それ以上のモチベーションはない。

 それに。

 今、師匠である三井さんやレイが日本の冒険者界を変えようと頑張っている。まだ、変われるんだ。


 俺は、未来への希望ににやつきながら秋菜を見る。

 すると、秋菜は、目がイってた。


『兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き』


 ひ、ひぃいいいいいいいい!


 妹から念話でめっちゃ囁かれて恐怖する兄、夏輝。

 言っておくけどな! ASMRよりも脳内で響いてくるからな!

 出来るだけ、意識を逸らそうとエマの方を見るとエマは優しく微笑んでいて……。


「……はは、そっか、まあ、そうだと思ったよ。クレイジークラウンはそうだろうね」

「悪いな。でも、アメリカがピンチの時は、最速でぶっとんでいくからさ。そん時はまた一緒に戦おうぜ」


 俺がそういうとエマはにかっと笑い、手を伸ばしてくる。

 コイツはとんでもない美女な狂人だけど、俺のようなヤツの考えも分かってくれる。

 本当にヒーローのような……


 がちゃ


 ん?


 がちゃ?


 俺は、音のする方を見る。そこにあったのは周年キャンペーン10連ガチャでも、SSR出るまで最大100連ガチャでもなく、更科夏輝逮捕手錠ガチャだった。


「おいぃいいいいいいいいい! 今、シェイクハンドお別れチャンスだっただろうが!」

「そんなんでアタシの気が済むかぼけええええ! おい、ナツキ! 見逃してやるから、ダンジョンに一緒に行こうぜ! 大友しろ!」


 お供、な! なんだ、康平か!? 宗麟か!?

 くっそう! この手錠、魔力制限かけてやがるな!? いくよ! おともすればいいんだろ! おともすれば! でもね、旦那さんには悪いけど……正直、まだ互いのココロが通い合ってない気がするにゃん。ホントの自分なんて、そうそうさらけ出せるものじゃないにゃん! ……でも、狂人とヘンタイなんてそんなもんかもにゃん(夏輝なつき度ゼロ)。


「いよっしゃあああああ! ナツキ、一狩りいこうぜぇええええ!」


 にょおおおおおおおおおお! アイキャントゴートゥーダンジョン!

 アイドントウォントゥモンスターハント! ノォオオオオオ!

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