二部第15話 変態、夏フェスで有名人と遭遇、オワタ

「あ、あの、困ります!」


東江さんの嫌がる声。

それを嬉しそうに笑う下卑た男に見覚えがあった。


屋内プールでのトウカとの運命的な再会のおまけ事件。

三条さんと秋菜をナンパしてきたリトルマウンテンドキュンさん。

その先輩とお仲間が、東江さんと上田さんをナンパしている。

鈩君は居ないようだ。


「夏フェスで、音楽以上にノれる思い出を作ってあげるからさ」


ドキュンさんのナンパ用トークデッキが弱すぎる。


「やあ、お兄さん。僕のパン……を喰らいなよ」


俺も同じカードで勝負だ!

俺の顔を見ると驚くドキュンさん。いや、俺も驚いたよ。

全く同じトークデッキでやってんだもん! もっと練り直せよ!


「お、お前!? ストーカーかよ!」


おう? お前、マジもんのストーカーの恐ろしさを見せてやろうかあ、おおん?

社会を知らないドキュンさんの為に教えてやりたい更科夏輝は、間に入って、実技講習を始める。


「いやあ、お久しぶりです。お元気ですか? あの時のお怪我は大丈夫ですか? 社会的地位は大丈夫でしたか?」


先ずは、相手へ丁寧なあいさつ。そして、体調などをお伺いする。

さらには、先日お会いした時の話などを交えると相手に好印象を与えられる。


「ふ、ふ、ふざけんな! お前のせいで俺は大変な目にあったんだぞ!」


失敗した。

おかしいな? とても丁寧にご挨拶させていただいたのに。

ああ、そうか。あちらが話を聞かないドキュンさんだから意味ねーのか。

だったら、言葉は不要か。


俺が一歩前に出ると、ドキュンさんが一歩下がる。


「俺のせいですか? 具体的にはどういった点が俺のせいなのか教えて頂けますか? ちょっと周り爆音なので、できれば、大きな声で、あなたが! プールで! 股間を!」

「うわー! 待て待て!」


ドキュンさんが急に間合いを詰めてくる。香水臭いので勘弁してほしいんだが。


「なんですか? 原因の究明のために情報の確認をしようと……」

「いや、ばか……そうじゃ……!」

「あっはっは! 佐渡ちゃん、すっげー馬鹿にされてんじゃん!」


ドキュンさんの言葉を遮りながら金髪の小柄なイケメンが後ろから現れる。

どうやらこの人がボスドキュンのようだ。

佐渡ちゃんと呼ばれた雑魚ドキュンさんがドキュンドキュンしてる様子で俯いている。

しかし、どっかで見たことあるような……。


「いやあ! 君か!? 佐渡ちゃんを警察に突き出したのは」

「いえ、突き出したのはプールの人ですね。僕は直接何かをしたわけではありません」


まあ、魔力使って色々やったけど直接はやってない。僕はやってない! やってないんだ!


「おいおい、真面目くんかよー。……空気読めよ。細かいことはいいんだよ。こっちが手を回してめんどくさい事させられてんだ……! お前、ぶっとばすよ」


なんてこった。流石ボスドキュンだ。警察にも手が回っているとは。

日本の警察腐ってんな。


「いいか? お前が今からやるべきことは二つだけだ。女を差し出す。そして、とっとと帰れ。クソキモ野郎」


本物のクソキモ野郎を見せてやろうか。こんなもんじゃねえぞ。俺の父親だけど。

どMなんだぜ。ぼっこぼこに母親に殴られて血塗れで恍惚とした表情を……あれ……涙が……。


「おいおいおい、泣くなよ~。怖かったんでちゅか~」

「うわ~ん、怖かったというかキモかったでちゅ~」


記憶の中の父親が。アイツ、記憶の中で三角の何かに座ってサムズアップしてたんだよ、ボスドキュン!

だが、そう言えば、ボスドキュンはウチの優秀な妹と違い、俺の思考は読み取れない。

どうやら勘違いをしたらしく、顔は笑顔だがキレ始めたようで顔をぴくぴくさせ始めた。


「てめえ……マジで舐めてんな……! オレの事も知らないみたいだし……!」


ん? なんでこんなにコイツ、自分の事を誰もが知ってるだろうみたいな空気で言ってんの? マジで誰だ?


「兄さん……この人は……西黒壱星……」


後ろから秋菜が教えてくれて、やっと気づく。

【黒の勇者】西黒善一郎。

最年長の現役勇者であり、チーム【黒龍】のリーダーで、日本冒険者界では重鎮だ。

そして、目の前の男は、その息子。


ネット界隈での通称は【二世勇者】。

父親の威を借る息子だと噂の男、西黒壱星にしぐろ いっせい


あー、俺、やっちゃいました……?

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