二部第14話 変態、夏フェスで涙、オワタ

『盛り上がろうぜぇええええええ!』


いええええええええええええええ!


みなさーん! わたくし、更科夏輝は今、夏フェスに来ています!

やっぱ、夏は夏フェスだよねー!


めっちゃノリノリやでー!


「……で、合ってる?」

「合ってますとも! くれくら様のやることに間違いなんてないですから!」

「うん、大丈夫だよ~」


全肯定狂信者東江さんが大きく縦に頷き、鈩君がゆったりした口調で応えてくれる。

そう、俺は今、人生初の夏フェスに来ている。

それは遡ること、三日前のこと。



「くれくら神~、夏フェスいかない~?」


神と呼ぶことにツッコむべきか、神にどんだけフレンドリーやねんとツッコむべきか迷ってしまい、天狗面のイケオジに判断が遅くてビンタされる想像で、はぁはぁした俺は聞き返す事しか出来なかった。


「夏フェス?」

「そう~、昔、動画で夏フェスとか行ってみたいな~って言ってたから~」


そういえば、言ってた気がする。

中学生の頃、強烈に夏フェスへの憧れがあった。それで、多分狂気の仮面道化クレイジークラウンの動画で呟いたんだろう。マジでよく覚えてるな、くれくら倶楽部。


「今度、ある大型フェスにどうかな~って。あと、東江さんと上田さんも来るよ~」

「待て。そういうのってチケット制だよね。今からで」

「二枚神用にとってあるから~。【神託】で二枚あると吉って言われてたからね~」


おい、固有スキルの無駄遣い。


【神の子】鈩君の固有スキルは【神託】。

神の声が聞こえるらしい。ヤヴァイ。ただ、魔力を消費して聞きに行くパターンと勝手に聞こえてくるパターンがあって、今回は後者だったらしい。


行くのは良い。

正直、行きたい行きたいと言っても、まぢロックでファンキーな奴に絡まれたらむりぃな中身陰キャな俺では一生言っていただけだろう。

これはチャンスだ。

だが、神が行かせようとしている所に引っかかる。


俺にとって神は天敵だ。

勝手に【変態】という固有スキルを与えた。

勿論、それのお陰で鈩君たちともこうして出会えたのだが、ぶっちゃけた話をしよう。

これまでの展開からして、超絶ド級の変態な気がしているのだ。

そんな神様の言う通りにして大丈夫なのか。


だが。


だが!


「…………!」


物陰からチワワレベルですっごくぷるぷるしながらお誘いの様子を涙目で見ている東江さんが半分以上見えている。いや、あれ絶対親友の上田さんが俺に見えるように配置してるな。

なんという策士! 孔明の罠!


「むむむ」

「夏フェス行きたいものがあるか」

「ここにいるぞ」


くそう、鈩君も孔明だった。まるで孔明のバーゲンセールだな!

というわけで、夏輝IN夏フェス。


「そういえば、御子は大丈夫ですか? くれくら様」


東江さんは、トウカの事を御子と呼ぶ。

これに関しては俺もトウカも引いているが、本人は止める様子がない。


「ああ、うん。おねむの周期だからね。まあ、タイミングが良かったよ。こんな騒がしい場にトウカを出すとトウカ泣いちゃうから」


あれから暫く、神辺さんのチェックの元でトウカと毎日を過ごした。大変幸せな日々でした! 少なくとも、トウカが出ている日は、変態共の変態性がなりをひそめているのでマジ平和。そして、トウカがまじ天使。

そして、トウカは半日外で動くと三日俺の体内で眠ることが分かった。

眠っている時は記憶を共有しているわけではないらしく、トウカが寝ている間に俺の見たもの聞いたものは覚えていないようだった。


そして、丁度今日はトウカのおねむ中日だった。

まあ、多分、神もそのあたりを計算して神託したのだろう。じゃないと、マジトウカに危害与えたらぶっ56す。


「あはは~、くれくら神、鬼の形相だよ~。そんな顔してたら秋菜さんに撮影されるよ~」

「呼びました?」


鈩君の一言で慌てて、すん……な顔に戻すと、絶妙なタイミングで帰ってくる秋菜と上田さん。

流石、神託持ちやでえ。最高のタイミング。


そう、俺はもう一人に秋菜を誘った。


「どうだった?」

「うん、すごかった。ね、あかりさん?」

「うん、いやあ! やっぱいいよねえ! あのアニソンもやってくれたし最高だった!」


上田さんと秋菜は別のステージでやっていたメジャーアーティストの所に行っていた。

楽しんでいるようで何よりだ。


「兄さん、ありがとう」


ふと秋菜は俺にそんなことを言ってくる。


「礼を言うなら、鈩君だろ?」

「鈩君にはもう言った。それに、兄さんが誘ってくれたから。嬉しかった。兄さん、私の音楽の好み知ってくれてて、それで、誘ってくれて。嬉しかった」


そう。

今回のフェスには、秋菜の好きなアーティストが結構出ることを知っていた。

つまりは、まあ、秋菜の音楽の趣味は知っていた。

だから、誘うなら秋菜だろうと。


そのせいで、他の女性陣から埋め合わせを要求され、俺の後半スケジュールが真っ黒になったが。


それでも。

あれだけ、人が苦手だった秋菜がフェスなんて場所に行けるようになったのは、兄としてはやっぱり嬉しい。


「ふふ、兄さん! 次はあっち! あの人はね、海外でめっちゃ人気ある子なの! 行こう」


秋菜が俺の手を引き、ステージの方へ向かう。

俺が手を引いていくばっかりだった秋菜の成長に涙が出てくる。

いかんな、トウカのお陰が涙もろくなっちまったぜ。


秋菜と一緒に叫ぶ。

俺は妹と一緒に今を全力で楽しんだ。

涙がこぼれそうなほど。


「ねえねえ、俺達と一緒に遊ぼうよ~」


本当に涙がこぼれそうだ。


東江さんと上田さんがナンパされていた。


あの、リトルマウンテンINプールのドキュンさんとその仲間に。


なんか、泣けてきた。

神、マジか。

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