第82話 変態、ピエロに消されて修羅場オワタ

 全てが白い光に呑みこまれ、俺の意識も消えていった。

 そして、俺は夢の中に、いた。


 そこには白いアイツが立っていた。


『おめでとう! ナツキ☆』

「オウギュスト……」

『キミはヴィーの魂の一部を消し去った! 流石、ボクの見込んだ人間!』

「一部?」

『一部さ、魔王みたいな強力な魔力を持つ者はこちらに来れない。だから、あの化け物。アニマドウルって言うんだけど、あの中に魔力を潜り込ませてやってくるんだ☆』

「なんだそりゃ、麻薬の密輸かよ」

『まあ、似たようなもんさ☆』

「じゃあ、まだヴィーは生きてるし、アレよりもっともっと強いってことかよ」

『そう☆ だけど、さっきも言った通り強力な魔力を持つ者は、こちらにまだ来れない。だから、様々な方法を使ってくるだろうね、キミ達を倒す為に』

「なんで俺達を倒そうとする?」

『ナイショ☆ まあ、察しはついてるんじゃないかな? 特にモジャモジャの子は』

「神辺先輩をなんで知ってる?」

『ナイショ☆』

「ナイショばっかか」

『じゃあ、一つだけキミたちの世界は素晴らしい……ボクは大好きだ』


 オウギュストが手をかざすと白い空間が一気に変わり、街を一望する空の上からの、映像? になった。たけえええええ! こえええええええ!


 よく見れば、大発生が起きた俺達の街だ。


『心配無用☆ モノノフ第一がようやくだけど、到着したからね、事態は収束に向かっているよ』


 【鋼の勇者】三井さんを先頭に、モノノフ第一のメンバーがモンスターたちをどんどんとなぎ倒していく。流石、勇者。ただ、ちょっと魔物に攻撃され過ぎたのかハアハアしてる。疲れてるのか、興奮してるのかは、ちょっと、遠目でよくわかんなかったっす、うん。


『育成チームも結局二つダンジョン攻略し、街での暴徒鎮圧でも活躍していた。今後も期待できるね』


 東江さんやアホ、眼鏡、愛さん、ジュリちゃん達が地面に座り込んで笑っている。

 無事ダンジョン核を破壊できたようだ。


『自衛隊、警察、そして、ダンジョン庁を含む冒険者達もなかなかに素晴らしい連携だった』


 氷室さんが最前線で陣頭指揮を執りながら魔物の残党征伐に当たっているようだ。

 だが、その表情はもうだいぶ柔らかい。


『そして、なにより! 人間達の抵抗が、生への執着が! マギを高めた! すばらしいね!』

「さっきから言ってるそのマギってなんですか?」

『ん~、愛、かな☆』

「は?」

『愛だよ、愛! 人間の世界には愛が溢れている。まっすぐな愛、歪な愛、シンプルな愛、複雑な愛! 愛だらけだ! すばらしいよ! すばらしい! 愛! 愛! 愛だ!』


 オウギュストが笑っている。心底幸せそうに。

 必死に戦う人々を、安堵に微笑む人々を、歓喜に沸く人々を、痛みに苦しむ人々を、失ったものに嘆き悲しむ人々を、怒りに震える人々を、呆然と佇む人々を、人々を、人々を、人々を、見下ろしながら。


『だからね、ボクはキミに生き延びてほしい』

「生き延びる?」

『魅魔王ヴィーは生きている。そして、彼女とボクを含め、魔王は十二人いる』

「は?」


 オウギュストは俺の驚いた顔を愛おしそうに見つめる。

 キモいのにキレイだ、クソ。


『ボクの愛するナツキ、キミがボクのいう事を聞いてくれたら、そっちの時間で二年。魔王をやってこさせないことを誓おう』

「言う事? 一体何を」

『ガッコウに行って、コイをするよう努力するんだ。そして、色んな経験をして。そうして、キミのマギをもっともっと輝かせるんだ』

「は? それが条件?」

『そう、それが条件。でも、キミはそれが出来ない。魔王が十二人もいる。ヴィーは力の一端しか見せてない。それだけでキミは、家族を守ろうと、必死になって努力をする。けれど、それじゃあダメだ。そのやり方じゃあ間に合わない』

「学校に行けば変わるのかよ」

『変わる。ボクが楽しめる。……そうだね、じゃあ、こう考えて。魔王殺しの魔王が、キミ達の側につく可能性が高くなる』

「見世物かよ」

『そうだね、キミも道化。ボクとあのクソ神が奪い合う大切な……おおっと! 駄目駄目! これもまだナイショだね☆』

「ほぼ聞こえてるんだけど」

『大丈夫。消すから』

「は?」

『それより、どう? ボクとの約束、出来る?』


 ぶっちゃけ、他の方法が思いつかない。

 コイツは強い。あの左腕だけでアレだったんだ。

 しかも、魔王殺しの魔王。喉から手が出るほど欲しい力だ。


「分かった。約束する」

『うん、ありがと☆』


 オウギュストが笑う。

 クソ、マジで美人だ。っていうか、コイツ、男? 女? どっちだ?


『じゃあ、消すね。記憶☆』

「は?」

『大丈夫、約束だけは忘れないから☆』

「いや、え?」

『じゃあね、ナツキ☆ もっともっともっと愛に溢れたキミと出会えるのを楽しみにしてる☆』


 オウギュストが手をかざす。待て! 俺はお前ともっと話が!

 あれ? なんで俺はコイツと話したいんだ?


『……あは、やめてよー。名残惜しくなっちゃうから。それもまた、次への楽しみにとっておこう。じゃあね忘れんぼの魔法チックトリック


 オウギュストが俺に布をかける大きくてふんわりとしたその布に包まれ、そして、気付いた時には俺は……変態に囲まれていた。


「夏輝!」


 誰の声かは分からない。あまりにもみんなが呼ぶもんで、混乱する。

 あれ? みんなここにいる? なんで?

 気になることはいっぱいある。


「俺、どのくらい寝てた?」

「一時間くらいじゃないかしら」


 姉さんが答える。

 そうか、多分、また魔力のキャパオーバーのせいだろうな、『贄の魔』は強い、けど、制御できないと、気絶する。三井さんの時と違って、変態全解除してからだったけど、駄目だった。

 まあ、みんなの思い(変態力)が高すぎたせいだろうなあ……。

 それでも、厳しかったとは思うけど、多分、あの真っ白ピエロのおかげだろうな。


 オウギュスト。


 少なくとも、今は敵じゃなさそうだ。

 何を話したっけ?


「どうしたの? 夏輝、大丈夫?」

「神辺先輩、俺、夢の中で魔王に会いました」

「……! さっきのヤツかい?」

「いえ、俺が以前あった。魔王だとは思ってなかったんですけど、以前会ったヤツが魔王でした」

「夢、といっても馬鹿には出来ないね。魔法なんてのがあるんだ、夢で会話くらい出来るかもしれない。で、なんという話をしたんだい?」

「学校に行く、約束をしました。そして、コイをする努力をすることを、あとは、色んな経験をすると……」

「……何故?」

「それが……思い出せないんです……」

「ふむ……何かしらの記憶操作かな……ただ、そう約束した以上は、行った方が良い。何かしらの呪いの一種で逆らったらペナルティがあるかもしれない……それに……」


 神辺先輩が俺の周りを見る。


「彼女たちはやる気満々のようだぞ」


 やってしまった……! いらんこと言うた!

 愛さんやレイ、ジュリちゃん、いや、皆さんから魔力が立ち上っている。


「恋……恋……恋……新たな学園生活で始まる恋の予感……!」

「年齢差恋愛は今の時代問題ないはず! むしろ燃え上がる」

「こい……はぐ……におい……みっちゃく……らぶ……!」

「禁断の恋。仕方ないわね」

「妹萌えは王道よね」

「クイ!」


 ヤ  バ  い


 誤魔化さねば!

 っていうか、眼鏡はほんとなんでも参加してくるな! クイ! ってなんだ! クイって!

 俺は、眼に入った野郎をいじる!


「それより! 千原さん! 弟さんは大丈夫ですか!? 急に飛び込んでくるからびっくりしましたよ!」


 氷室さんについてきたであろう千原さんに話を振る。

 だけど、千原さんはきょとんとしている。


「おとう、と……? オレ、弟なんていないけど? 一人っ子。あー、飛び込んでくるで思い出した! お前だって! この前、オレがクラブで読モ口説いてたら急に飛び込んできて急に俺にベタベタして邪魔しやがって! ざけんなよ!」


 …………は?


 俺は、陰キャだ。クラブなんて行かない。

 ていうか、待て。

 あれは千原さんの弟じゃない?

 じゃあ、誰だ?

 あれ、は……。


『あははは☆ またビックリした?』


 声が聞こえた気がして振り返った。

 そこには、アイツはいなかった。




 代わりに。




「クラブ? 夏輝がクラブ? そんな展開はナマナ! にない……! そんな記憶消さないと……!」

「翼、ギャルメイクを教えて」

「嘘でしょ? 兄さん……わたしに、ギャル妹になれと……」

「僕とはしないのにチャラ男とベタベタ……!」


 修羅場がそこにはあった。おい、眼鏡てめーはマジで別だ。

 そして、絶対零度の氷室さんが、颯爽と近づき、俺に冷たく言い放つ。


「まあ、話はじっくり聞こうじゃないか。それにこっちにも色々話がある。勇者になる件とかな」

「え? なんだって?」

「勇者になる件とかな」


 くそう! やっぱり出来ないじゃないか! 主人公スキル!

 なんで、主人公スキル使えないのに、勇者になるのさ、おかしくない! ねえ!

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