第81話 変態、みんなにパワーを貰って混沌オワタ

『なんっデ! あんたがその左腕をもってるのヨオオ!』


 俺の左腕は今、真っ白に輝いている。細くて頼りない腕だ。

 だが、ヴィーは今、誰よりも怯えている。


 この腕の使い方はなんとなく分かる。

 いや、この左腕に刻み込まれている。

 アイツに、オウギュストによって。


 アイツがなんだったのか、俺には分からない。

 ただ、今分かることは、今なら一発、魔王に一泡吹かせる一撃が放てる。

 一が多いな。


「……下手な物真似ミミック


 俺がオウギュストの左手をヴィーに向ける。


『やだやだやだやだやだやだ! やめてよ! 気持ち悪い!』


 魔力の形に戻り、逃げ惑うヴィーと、ぼんやりこちらを見つめる理々の魔力をほんの少しだけ奪う。

 そして、俺の腕は桃と紫のマーブル模様の気持ち悪い腕に【変態】する。


化け者ワイルドカード……贄の魔シシア・マギア


 贄の魔シシア・マギア

 魅了された、もしくは、忠誠を誓った魔力持つ者の魔力を奪い、己の魔力とする。


 俺の頭の中に、あのヴィーの技に関する情報が流れてくる。


 なるほど! 世の中はうまく出来ている。

 こんな変態な展開でも、最後はやっぱりベタに元〇玉ってわけだ!


 オラ、わくわくすっぞ!

 みんな、オラに魔力を! 

 みんなの思いが集まってくっぞ!


 掲げた左手に魔力がどんどんと集まってくる。

 それは勿論アイツらの魔力もあって……近しい存在のせいか、アイツらの思いも流れ込んできて……。


『二人で一つのパンを分け合いながら食べる帰り道、夏輝と二人でトラックに轢かれて異世界転生して、二人でパン屋を始めるの! そして、始まるスローライフ。二人の愛のスローライフ!』


 はナマナァアアアア! 愛さんの愛読書はナマナァアアア!

 どういう展開なのよ! 愛さん! っていうか、作者の夢見きらり出てこいやぁああ!


『魅せる下着がどんどん増えていく。早くナツに見せねば!』


 国家公務員のトップクラスは貰ってんなああああ! っていうか、今多分戦闘中だよね、レイ!


『上着の匂いもいいけど、下も、全部、においたい……全身匂いをこすりつけてもらいたいぃいいい!』


 アニメ声でそれ言わないでもうギリギリよ! ジュリちゃん!


狂気の仮面道化クレイジークラウン様と今、私は同族に! そして、私は下位互換! 下の者は従うことしか出来ず、最後には、はあはあ』


 何!? 最後にはどうなるの!? 聞きたい、けど、聞きたくないよ! 東江さん!


狂気の仮面道化クレイジークラウン様に勝利を!』

『くれくら様に栄光を!』

『くれくら万歳! くれくら万歳!』


 お願い解散して、くれくらくらぶ!


『こいつ等倒して、夏輝と河原で友情の殴り合いだぁああああ!』


 おい、誰か友情をちゃんとこの眼鏡に教えろ! 眼鏡曇ってんぞ!


 ……違うじゃん! なんかもうこう……もっと、『お前がナンバーワンだ……』的な……美しきパワーで勝ちたいじゃん!

 なんで、こんなHP(ヘンタイパワー)しか集まってこないのよ!


『あとは……まかせたぜ……夏輝、あばばばばば!』


 アホ、嘘ついてんじゃん! 死の間際の台詞っぽいこと言って神様に怒られて固有スキル【正直者】発動してるじゃん!

 でも、生きててよかったよ! アホ!


 いや、

 マジでまともなのいねええええええ!


 なのに、すっげえ魔力は集まってきてるんですけど、マヂ泣きたぃ……!


『いやあああああああ!』


 ヴィーが叫んでいる。こっちの台詞だわ!


『やめてヨ! 返して! アタシのマギラ、返セ!!』


 再び獅子キメラに入り込んだヴィーが今までにない必死の形相で襲い掛かってくる。

 ああもう! こうなりゃやってやる!

 腕以外変態を解いた俺は無防備だ。それでも、キメラに向かって駆けだす!


「姉さん!」

「私の全て、夏輝を守るために力を貸して!」


 姉さんの呼びかけに応えるように、無数の武器が俺とヴィーの頭上に現れる。


『はあっ!? 弟も殺す気!?』


 ヴィーは頭上の武器の雨に驚いている。だが、俺は何も躊躇いなく駆け出す。

 俺は自分の家族を信じてる。

 そして、武器が降り注ぐ。


『ぐ、ぐあああ……ああ、あああ! うっとおシイ!』


 触手を使ってヴィーが武器を振り払う。が、武器の雨がやんだ後、ヴィーの視界に俺の姿はない。


『あレ……アイツ、アイツどこに!?』


 残像だ。出てないけど。


「ここだよ」


 俺はヴィーの頭上で左腕を構えながら告げる。


「やっちゃえ、兄さん!」


 にやりと笑う秋菜が大声で俺に叫んでる。

 そう、秋菜の瞬間移動で送ってもらった。

 流石のヴィーもさっき見たばかりの二人の魔法を相談なしでやってくるとは思わなかったのだろう。

 武器の雨を降らせ、更にその上から攻撃する。


 俺達三人の……いや、


『そんなもの避け……! って、何!? 地面が凍って……まさか、地面を……!』


 【青変態ブル】させちゃった! ざまぁ!

 俺達家族の、俺と、姉さんと、秋菜と……冬輝の、四人の、思いを喰らえ!!!


「いいね、かっこいいよ☆」


 ………!


『……アタシだけでもと思ったのに楔が……! クソ! クソ! オウギュスト! 魔王殺しの魔王、オウギュスト! 騙したな! アタシを落とすために! オウギュストオオオオオ!』

贈物パンドラ


 俺の目の前に白い匣が現れ、開かれる。

 そこから現れたのは白い魔力。


 みんなの思いが【変態】した、純粋に全てを滅す『暴力』の光。


 その光はヴィーを呑みこみ…………そして、消し去った。

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