俺の固有スキルが『変態』だってことがSNSで曝されバズりまくって人生オワタ。予想通り国のお偉いさんや超絶美女がやってきた。今更隠してももう遅い、よなあ。はあ。

第79話 変態、姉妹に絡まれ思考停止オワタ

　三体のミツルギキマイラ改(勝手に命名)がこちらに向かってやってくる。

　最悪の展開だ。敵が増えた。

　そして、背後からチャラ男２、こと、千原嵐歩がやってくる。

　最悪の展開だ。ある意味敵が増えた。

「はっはっは！　久しぶりだな☆　お前！　さあ、御剣大学、槍サー『グングンナル』のエース、千原嵐歩が力を貸してやる！」

　チャラ男２が拳を突き出してくる。

　俺も思わずその拳に自分の拳を当てる。いっしょうのふかく。

「さあ、行くぜ！」

　そう叫ぶと、エースは、真ん中のライオンみたいな顔したヤツのところに飛び込んで槍をちょっと刺して、ブレスでふっとんだ。

「あと、一歩足りなかった、か……」

　いや、生きてんのかい。頑丈だな。

　さて、どうでもいい茶番だったが、分かったことがある。

　やはりブレスの後は一瞬硬直する。それは変わっていないようだ。

「おい……オレの犠牲を、無駄に……する、なよ……！」

「え？　なんだって？」

　遠くでチャラ男２が何か言っていたが、よくわかんなかった。

　こういう時だけ主人公属性が発揮されるってどうかと思うぜ。

「夏輝」

「姉さん、あの人は……？」

「縄で拘束したわ。もう動けない。それより……」

　姉がアイツらを見て顔を顰める。

「うん、ミツルギキマイラが分裂した。しかも、あの額の傷は俺と冬輝が……」

「冬輝の敵討ちってわけね」

　そう、敵討ちだ。

　ただ、あの時のアイツとは全然違う。

　恐らくあの魔王の仕業だろう。

　一体一体があの時の化け物クラスの魔力を持っている。

　俺と、姉さんと三条さんと神辺先輩。勝算は低い。せめて、あと一人……

『おまたせ、あに』

　ドンという音と共に俺の近くに降り立ったのは、箪笥だった。

「え？」

　三条先輩があっけにとられる。

　この冒険者マンチョコのシールを貼ってしまった箪笥は見間違うはずもない俺の箪笥だ。

　そして、バラバラと落ちてくる魔石。

　間に合った。

「ギリギリだけど、助かったよ、秋菜」

　俺は宙で腕組んでドヤ顔してる秋菜に感謝の言葉を贈る。

「箪笥？　なんで？　魔石は分かるけど、箪笥？」

　三条先輩はこんらんしている！

　まあ、無理はない。魔石はいわば俺達冒険者にとっての燃料だ。

　魔力を回復してくれる。

　では、この箪笥は？

　考えたくはないが、特定の人物にとっての魔石以上の特大の燃料なのだ。

「た、箪笥……夏輝の、箪笥……」

　姉さんが震えている。そんな姉さんを見ながら俺が震えている。

　そして、秋菜が口を開く。

「お姉ちゃん、兄さんが今回頑張ったら、その箪笥の中の兄さんの服、好きなだけ持って行っていいって」

　え？　ちょっと待て！　ちがうよ！　『好きなのを』って言ったんだよ！　『好きなだけ』じゃないよ！

　だが、時すでに遅し。姉は聞いてしまった。そして、もう、ある意味『変態』してしまっている。

「夏輝の箪笥の中身を、好きなだけ……？」

　姉はゆらりと立ち上がり、黒い魔力を煙のようにいくつも立ち上らせている。

　ゆっくりと右腕を上げる。

　秋菜が持ってきた箪笥が魔力によってつくられた異空間に全て吸い込まれる。

「ああっ……ん……！」

　姉、色っぽい声を出すな。

「夏輝が、私の中に……！」

　姉、誤解を生むようなことを言うな。っていうか、箪笥全部とられたら俺明日からどうしたら。

「箪笥も全部、私が買ってあげるの……！　私が買ってあげた服を夏輝はこれから着て過ごすの……！」

　わー、かねもちー。

　姉の目がヤバい。ちょっとミスった。っていうか、ミスったのは妹だけど。

　その妹もまた目がヤバい。

「うふふ、良かったね。お姉ちゃん。あたしもねー、がんばったらねー、一日中、一緒にゲーセンでプリクラ撮る約束したの」

　しました。アイツの基準がよく分からない。普通に俺の姿はギリギリまで撮って平気な顔（多少崩れてハアハアしてるが）してるのに、ツーショットをやたら恥ずかしがる。盗撮ツーショットでも勇気がいるらしい。挙句の果てに合成とかしてた。

　だから、姉の報酬を伝えた時に、妹にも言ったのだ。プリクラとか一緒に一枚撮るかと。

　妹は、トんだ。空を飛んで、俺達の家へと向かった。やる気が凄い出てた。

　あれ？　待てよ。あの時やっぱり一枚って言ったよな？　ねえ、秋菜さん。

　声を掛けても無駄だろう。秋菜さんの念話による声は、もう欲望しかない。

　駄々洩れだ。

『兄さんとプリクラ兄さんとプリクラ兄さんとプリクラ兄さんとプリクラ兄さんとプリクラ兄さんとプリクラ兄さんとプリクラ兄さんとプリクラ兄さんとプリクラ兄さんとプリクラ兄さんとプリクラ兄さんとプリクラ兄さんとプリクラ兄さんとプリクラ兄さんとプリクラ兄さんとプリクラ兄さんとプリクラ兄さんとプリクラ兄さんとプリクラ兄さんとプリクラ兄さんとプリクラ兄さんとプリクラ兄さんとプリクラ兄さんとプリクラ兄さんとプリクラ』

　いやああああああああああああああ！

「ふふ……秋菜も良かったわね。じゃあ、そのお願い叶えてもらう為に」

「こいつら、ぶっ飛ばす」

　うん、もう考えない。

　最悪の大発生なのだ。明日の心配などしている場合ではない。

　何も考えるな。俺。

　今は、目の前の敵に集中しよう。

「二人だけテンション上がってるんだけど……」

　三条先輩がジト目で俺を見る。

　だが、三条先輩に俺が出来る事は無い。

「翼、もし頑張ってくれたら、私が翼のお願い聞いてあげるわ」

「アイツ、コロス……！」

「神辺先輩！　神辺先輩も頑張ってくれたら、兄さんのスキャン写真のコピーいくらでも差し上げますよ」

「ふむ……消滅させるだけで十分かな？」

　はい、解決ー。じゃあ、みんなで頑張りましょう。

　そのうち夏輝は考えるのをやめた。なのだ。

「じゃあ、俺は真ん中を引き付けとくんで、それぞれ二対一で仕留めてください。倒し次第、倒せてない方へ。そして、最後はあの傷持ちをみんなで」

「「「「了解」」」」

　全員が散り、戦闘が始まる。

　姉さん、三条先輩、対、鳥のキメラ。

　秋菜、神辺先輩、対、山羊のキメラ。

　俺、対、獅子のキメラ。

「では、ヨロシクオナシャース」

『ハあ……やる気出ないワ』

　魔王様が溜息を吐く。

「なんで？」

『だって、結果が分かり切ってるモノ。アナタ、何したの？　マギが異常に高まってる。特に、あの黒いのと桃色の……あんなのあの子達勝てるわけないじゃナイ』

　魔王様が憂鬱そうに指をさす。

　そこでは姉が鳥のキメラと戦っている。

「翼、夏輝にいいこと見せるから、援護して」

「りょーかい！」

　三条先輩が後方に下がり、銃を向ける。

　いや、あれは正確には銃じゃないらしい。銃の形をしたただの魔鉄の塊。

　三条先輩はあの形が使いやすいらしく、あれから魔法を放つ。いわゆる特殊な形の魔法発動武器なのだ。

　風と火の二丁魔法銃で鳥キメラの意識を三条先輩に向けさせる。

　その隙に姉は鳥キメラの傍にやってくると収納魔法で取り出した緑に輝く剣を手に持ち、思いっきり突き刺す。

　その痛みで慌てて姉に気付いた鳥キメラは姉に攻撃を仕掛けるが仕掛けようと触手を伸ばすと、氷室さんも使っていた黒槍が上から落ちてくる。

　今知られている槍の中でもトップクラスに重い黒槍が落ちてくれば流石に何かしらのアクションを求められ、そちらに意識が持っていかれる。その隙に姉は攻撃範囲から逃れ背中に回り、再び赤黒いナイフを背中の羽根に突き刺す。

　黒槍を降らせながら、踊るように姉は、鳥キメラの身体中に武器を突き刺していく。遠くからは三条先輩の魔法攻撃。

　しかし、それでも倒れない鳥キメラに異変が起きる。

　鳥キメラの身体が黒く変色し始めたのだ。

　やったのは、姉さんだった。

「これは、毒と呪い……冬輝を奪った罪を、身をもって償いさない」

　毒と呪いに侵された身体で何とかブレスを放とうとする鳥キメラ。

　そのブレスが姉を襲い掛かる瞬間、姉の前に大きな壁が現れブレスを防ぐ。

　そして、背を向けた姉が手を挙げると、鳥キメラの頭上に恐ろしい程の黒槍が現れる。

「あの……姉さん、姉さんの収納魔法って一部屋くらいじゃなかったっけ？」

「増やしたわ。夏輝の物が入らなくなってたから。今は２ＬＤＫ位。まだ夏輝のモノ、いっぱい入るわよ」

　妖しく微笑む姉の後ろで、鳥キメラは無数の槍の雨にうたれ、崩れ落ちる。

「ご褒美、楽しみにしてるわ」

　いや、あげたやんけということも出来ず俺は黒の魔女の圧倒的力に苦笑いを浮かべる。

　そして、もう片方もあっという間だった。

　山羊キメラの周りで秋菜が飛び回る。

　うっとおしそうに魔法で落とそうとする山羊キメラだが秋菜が思考を先読みしてるのか、中々当たらない。

　その上、神辺先輩が魔力の起こりを察知して簡易無詠唱魔法で誘爆させるために攻撃が成功しない。

「神辺先輩、送ります」

　秋菜がそう言うと、神辺先輩の周りで沢山の写真が舞う。

　神辺先輩は、【魔眼】でそれらを見つめ、秋菜に伝える。

「更科妹、Ａの１１、Ｃの２、Ｆの4、Ｇの１、だ」

「了解」

　写真は、山羊キメラの全身をパーツごとに撮影したものだった。

　神辺先輩の【魔眼】は写真でも魔力読み取れるのか、すげーな。

「喰らえ、水竜の咆哮（アクア・ブレス）」

　秋菜は、4つの魔法用スマホを宙で躍らせると、神辺先輩が指示した部位であろう場所をキメラのお株を奪うような魔法のブレスで貫く。

「お見事だ。更科妹」

「あとはお願いします。先輩」

　神辺先輩が駆けだす。研究者とは思えない身のこなし。

　何か小さなボールのようなものをポケットから取り出す。

　そのボールが危険だと察知したのかよろめきながら山羊キメラがブレスを放つ。

　土のブレスだ。

「瞬間移動・他（アスポート）」

　秋菜がそう唱えた瞬間、ブレスを喰らいかけた神辺先輩は消え、山羊キメラの目の前に現れる。

「貴重な体験が出来た。感謝する」

　にやりと笑う神辺先輩の身体が加速する。

　妹の、秋菜の【念者】の力はまだ終わらない。

「念力（サイコキネシス）」

　神辺先輩の身体を秋菜の魔力が包み、山羊キメラの元へ飛ばす。

「さあ、全てを曝け出せ。愛すべき未知の魔物よ」

　神辺先輩がそう呟きながら持っていた球を山羊キメラにぶつけると山羊キメラは悲鳴をあげ、そして、崩れ落ちる。

「これはね、魔物の中にある魔核を吸収する魔法道具さ。まだ、申請はしてない物だが、うまくいった。キミの犠牲は無駄にはしない。君の全ては、私の知識に、脳に刻み込まれるから安心して眠りたまえ」

　そう神辺先輩が笑うと、秋菜は動かなくなった山羊キメラの身体を念力で持ち上げる。

　そして、はるか上空まで持ち上げると思いっきり獅子キメラに向かって落とす。

『ちょっト！！！』

　ヴィーの叫びを無視して、ぐしゃりという音と魔物の血が飛び散る中、秋菜はいつの間にか俺の胸の中に飛び込んでいた。

そして、姉も背中に貼り付いている。いつの間に？

「秋菜……瞬間移動とかいつの間に」

「兄さんの懐にいつでも行けるように、覚えた。いつでも呼んでね。いつでも行くから」

　自慢の姉妹が俺を挟んで笑っている。

「「ずっと傍にいるからね」」

　いや、嫁には行ってよ。

　ブラコン姉妹に将来の不安を抱きながらも、俺は感謝の気持ちを込めて二人を思い切り抱きしめた。

　めっちゃ顔から液体出てたけど知らん。

　更科夏輝は考えるのをやめた。のだから。