第78話 変態、化け物にブレスかまされて危機オワタ

『やめてよ~☆ ぼくの配下をG扱いするの』

『『は?』』


 俺と冬輝が振り返ると、三つ首の化け物がこっちを見て嗤っていた。

 後にミツルギキマイラと命名され、【鋼の勇者】とその仲間達が大けがを負いながら二体倒したという伝説で恐れられることになるその化け物。

 ソイツが俺と冬輝の後ろで嗤っていた。


『冬輝……言っとくぞ、この、化け物のせいで、松浦さんが足一本やられたらしい』

『は!? あのモノノフの?』

『【鋼の勇者】が戦いに行った。あの人が負ける訳ない。だから、』

『もう一匹いたってことかよ』

『……! 避けろ!』


 化け物の口に魔力が収束される火の魔力。多分ブレスだ。

 俺の叫び声で冬輝は俺と逆の方向にはじけ飛ぶ。直後、炎が通り抜ける。

 多分、冬輝は、地面を【変態】させて自分を飛ばしたんだろうけど、その時の俺にはそのことを分析する余裕はなかった。

 冬輝は何か上級魔法を使えるその程度の認識だった。


 俺は、すぐさま冬輝の元へ駆けだす。化け物の攻撃はまだこっちを舐めてるのか大ぶりだ。スライディングで躱し、地面に足を踏み込むと、一気に跳ねる。


『大丈夫か?』

『ああ。っていうかさ、さっきあの化け物喋ってなかった?』

『そんなこと言ってる場合かよ』

『そだな。どうする?』

『出来るだけ、俺が粘る。だから、何か見つけてくれ』

『マジか』

『頼む』


 俺は紅の蜥蜴飛蝗クリムゾンリザードホッパーの脚で縦横無尽に跳ねまわって、とにかく化け物の攻撃を躱し続ける。

 前足の爪、尻尾、三つ首それぞれからのブレス攻撃、どれもが今の俺達にとって必殺の一撃で油断できない。


『こっちは大丈夫だよ。だから、任せた』


 そう伝えながら、俺は躱し続ける。

 爪! 尻尾! 爪! ブレス! 体当たりかよぉお! ぐぅうう!

 俺はありとあらゆる方法で相手の引き出しを出来るだけ曝け出させた。


『大丈夫。大丈夫だよ。絶対に生きて帰る……!』


 必死に防御し、躱し、痛みに耐える。

 だが、限界を感じ、俺は一瞬に力を込め化け物の頭を踏んで跳び、冬輝の近くに戻る。


『なんか分かったか?』

『ああ。弱点は、ない』

『はあ!?』

『三つ首だから意識が分散してミスることがあると思ったけど、どれかが主人格になってるのかちゃんと連動してる。強いていうなら継ぎ目だろうな無理やりくっつけたのか魔力が零れてる。ただ、その継ぎ目を狙う方法が……』

『あるんだろ』


 冬輝の目を見れば俺は分かる。方法はある。けれど、危険なんだろう。


『はあ……一応言うけどな。ブレス後一瞬硬直してるように見える。けど、二方向からは多分無理だ。俺、狙ってみたけど、俺の視線を察して、ブレスを撃ってこない』


 ちゃんとその辺りの弱点も分かってるわけだ。


『三つ首の化け物はブレスを吐いた瞬間一瞬硬直する』


 なら、


『ブレスに突っ込んでぶっ飛ばせば解決だな』

『マジで言ってんのか?』

『おう。んで、一発かませばあっちも多少ビビるだろ。その隙突いて、お前逃げろ』

『は?』


 流石、冬輝の分析力だ。それだけ分かれば、十分だろう。【鋼の勇者】ならブレス攻撃を耐え抜いて、きっとこの化け物を倒せる。だから、ここは俺が囮になる。


『お前が伝えろ。それで、この戦いは勝てる』

『夏輝は?』

『いや、アイツ抑えとく必要はあるだろ。野放しにしたら絶対滅茶苦茶になる。……ありがたいな、特大のブレスの準備してくれてるみたいだわ……! だから、頼んだぞ!』


 隣で冬輝の魔力の高まりを感じる。冬輝の身体強化なら俺が引き付けておけば逃げだせるはずだ。


『いよっしゃああ! 行くぜ三つ首ぃい!』


 三つ首がブレスを吐こうと魔力を高める。俺は脚に魔力を溜め飛び出そうとするその瞬間、抱きつかれた。冬輝に。


『は!? お前、なにやってんの!?』


 俺はブレスの的を絞らせまいと横に跳ねる。三つ首は慌てて俺を追う。

 この特大ブレスだけはなにがなんでも当てるつもりらしい。じっと魔力を口に蓄えたままだ。


『お前、さっき避けながら誰かに、伝えたんだろう? たぶん秋菜、どうだ?』

『……あたりだよ! 分析力キモすぎるだろ!』

『さっきもちょっと口に出てたぞ、お兄ちゃん』


 秋菜は、俺に向かってテレパシー的なもので話すことが出来た。

 【念者】というスキルで、でも、基本的に秋菜は俺にしか使ってこなかった。

 秋菜がずっと俺を探していた。だから、少しだけ答えてたんだけど、無我夢中過ぎて口に出てたのか。


『もう伝えてあるんだろ、なら、俺を逃がす為だろ』

『あたりだよ! 分析力キモッ!』

『嘘が下手だね、五月さん』

『夏輝だよ!』


 某芸人さんのフリまでやってきて余裕だなコイツ、とは思わない。

 冗談で恐怖を誤魔化すのは俺達の得意技だから。


『どっちかが死んだらダメなんだよ、アイツの為にも』

『お前……』

『だから、やろうぜ。二人で化け物退治! 俺が、俺なら、お前の道を作れるはず!』

『分かったよ! 信じるぞ! 冬輝!!』


 俺は脚を止め最大の魔力を込める。

 向こうも今までにない魔力の高まりだ。


『行くぞ!!!!』


 三つ首から馬鹿みたいにデカい炎のブレスが放たれる。

 俺は跳ねる。きっと冬輝なら俺の速さにも反応できる。

 俺に抱きついたままの冬輝が炎に手を伸ばす。

 俺は何もしない。冬輝がやると言ったから。俺は信じる。

 そして、その炎は、雪に変わる、白くて真っ白な。

 冬輝の左手は焼け焦げていたけど。


『やったぜ、夏輝』

『やったな、冬輝』


 俺は何もしない。炎には。

 ただ、飛び込み、冬輝の左手を焦がしたクソ野郎の額をかち割ってやった。


『やったぞ、冬輝』

『やったな、夏輝』


 俺達は、一度離れて、体勢を整える。


『グギャアアアアアアア!』


 叫び暴れまわる三つ首、魔力の割に思った以上にダメージを受けているみたいだ。

 もしかしたらもう一撃いれたら、勝てる?


 そう思った。

 そう思ってた。


 勝てる、はずだった。


『ナイスファイト☆』


 声が聞こえ、俺達の身体が半分ずつもぎ取られなければ。









 あの時の化け物が俺を見ている。

 俺の事を覚えているようだ。

 額を見せつけながら唸っている。


「よお、お久しぶりです」


 俺はミツルギキマイラを前にして汗を一筋気付けば流していた。

 いや、背中はナイアガラだ。

 あの時の悪夢がよみがえる。


『んフフフフ……この子がね、アナタのことをどーしても倒したいらしくてネ。でも、そういうマギって大事なのヨ。だからね、連れてきてあげたノ』

「お優しいことで」

『リオン。いい子ね……アナタに力をあげるわ。魅魔王のこの魔力を。だから、自分の中の限界の限界の限界まで引き出して、コイツを痛めつけて、殺しちゃやーヨ』


 ヴィーが人形から離れ再び魔力となり、ミツルギキマイラの中に流れ込む。


『アタシと一つになれてウレシイでしょお! リオン! だから、もっともっともっと逞しくなりナサイ! 見せつけなサイ! アナタの強さを!』


 ミツルギキマイラが、気持ち悪く変形していく。

 さっきまではまだ三つ首それぞれが暴れまわり千切れて、そこから触手みたいなのが生えだした。

 これじゃあ、動物の頭のあるタコだ。気持ち悪い。


 ただ、相当な力はあるらしい。神辺先輩が苦虫を嚙みつぶしたような顔で分かる。コイツ等はヤバい。

 くそ……間に合わなかったか……!


「はっはっは! 助けに来たぜ☆」


 俺は思わぬ援軍に振り返る。


「千原嵐歩、見参!」


 チャラ男2が、きた。おいぃいいいいい!

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