俺の固有スキルが『変態』だってことがSNSで曝されバズりまくって人生オワタ。予想通り国のお偉いさんや超絶美女がやってきた。今更隠してももう遅い、よなあ。はあ。
第76話 変態、幼馴染にみせられて正体オワタ
第76話 変態、幼馴染にみせられて正体オワタ
大勢の正気を失った目をした男たちを愛おしそうに見ながら理々は笑っていた。
固有スキル【傾世】……一体、いつ覚醒してたんだ……!
「理々!」
「あたしはラスボスだから、待ってるね♪ ……夏輝が望むならテーブルいっぱいの朝食用意して待っててあげる♪ 世界が壊れるの見ながら一緒に食べよ♪」
理々が去って行く。
追いかけたい。けど、それをさせまいと冒険者の男共が迫ってくる。
理々にコロっとやられた馬鹿男共が……! いや、ブーメランか。
「気持ちは分かるけど……反省してください! 先輩方!」
正気を失ったというより完全に魅了されたの方が正しいみたいで、割と冷静にスキルや魔法を使ってくるのが腹立たしい! 円城が馬鹿なだけだった!
御剣学園で対人シミュレーショントレーニングを重ねていてよかった。
とはいえ、【変態】を駆使して、とにかく死んでしまわないように戦うのはすげー難しく時間がかかった。
「はあはあ……! 行かないと」
スマホが鳴っているのに気づく。ダンジョン庁の木部さんだ。
「はい」
『あー! やっとつながった木部です! 氷室さんは今忙しいので私が代わりに! 今』
「同時多発大発生」
『そうです! 誰かから聞きました!?』
「ラスボスから」
『はあ!?』
「木部さん、氷室さんに繋いでください……首謀者は……俺の、知り合いです……!」
少し待った後、氷室さんが出て全てを説明する。
『そうかまさかお前の幼馴染が……』
「今、状況はどんな感じですか?」
『大発生が確認されたのは6つのダンジョンだ。今、冒険者を総動員して鎮圧に当たっているが状況は厳しい。冒険者の数が足りない……そして、襲い掛かってくる冒険者達が問題だ。お前の幼馴染の狙い通りの展開だ。そちらの対応には自衛隊や警察が当たっているが、冒険者も駆り出すことにはなるだろう。【傾世】……恐らく【魅了】の最上位だろうな』
スキル【魅了】はその名の通り、相手の心を奪い、言う事を聞かせるスキルだ。
本人の容姿や振舞、魔力によって成功率は変わるというのだから、モテる理々だ。
男なんかは狂信者と化しているのだろう。
『先ほど入った情報によると、上級冒険者の集団が御剣大学に強引に入り、御魂公園に向かってるそうだ。恐らく……』
「理々でしょうね……あの場所で俺を待ち構えるつもりなんでしょう」
『これだけの大発生だ。指揮系統は部下に任せ、私も出るつもりだが……これだけの複数の大発生は日本では類を見ない。正直絶望的な状況だ』
「氷室さん、あの」
『おい』
「はい?」
『ナツ』
「はい、あ」
『ナツ』
「なに、レイ?」
『ふふっ……もう一つ正直に言うとな。こんな絶望的状況だが、少しワクワクしている』
「は?」
『お前なら、なんとかしてくれるんじゃないかって』
「買いかぶり過ぎでしょ」
『三井から聞いたぞ。勇者候補になるんだってな』
「……はや」
『お前なら、勇者にだってなれる』
「なーんでそんなこと言うんですか」
『信じてる』
……はあ、やめてほしいな。そういうの。
男の子だからさ。
「やる気出ちゃうじゃないですか」
「夏輝!」
愛さん達が走ってくる。
「状況は、聞いた! おれらも手伝うぜ!」
「助かる。んで、早速アホと眼鏡に相談だ。俺達どう動くのがベストだ? お前ら毎日毎日アホみたいにアホなシミュレーションやってんだ。なんかないかアイディア!」
「いや、流石にこんな状況は想定したことがねえよ」
「ばか! 夏輝が僕達に期待しているんだ考えろ考えるんだよ!」
眼鏡とアホがあーだこーだ言い始める。
大発生・複数のダンジョン・敵に魅了された人間がいる。
問題は山積みだ。
『おい! ナツ! 私、行くぞ! もういっちゃうぞ!』
「氷室さん!? 氷室さんに繋がっているのか!?」
「お、おう」
「貸してくれ!」
眼鏡が俺のスマホを奪う。いつもより眼鏡の輝きが三割増しだ。
「氷室さん、ダンジョン庁には緊急時に使う魔石の貯蔵庫があると聞いています。ありますよね」
『ああ、今回の大発生で使用する為に今移動を始めている』
「その魔石を夏輝にあげて、夏輝に【変態】させ続ければ……」
「俺が死ぬわ。大体、こんだけバラけてたら俺一人で対応できねえよ」
『勿論、他の冒険者も出る。だが、すぐにこちらに呼び戻せるダンジョン攻略できそうな実力者の数がそれでも足りない』
「くそう! クレイジークラウンが百人いりゃあなあ、ウチの武器やらなんやら渡して強化すりゃあ、こんな奴ら屁でもねえのに!」
無茶言うな、アホ。無茶……
「おい、アホ、氷室さん、ちょっと無茶言ってもいいですか?」
俺はアホと眼鏡と氷室さんに要点を告げ、動き出そうとする。
「夏輝!」
愛さんの声がかかる。
「あたし……あの……」
愛さんが怯えている。無理もない。愛さんは御剣大発生も体験してるんだ。
けれど、愛さんの力は必要だ。彼女の力はアレさえあれば……仕方ない。
「愛ある姫、君の為に俺は戦うよ。だから、キミの力を貸してくれないか」
「……はひ! 全力だしちゃうまふうううう!」
見たことない黄金の魔力を発しながら愛さんが高まっている。
背に腹は代えられん。
「兄さん……」
「お前が俺のことを想っていてくれるように俺もお前のことを想っているよ」
「おにいさまああああああああ!」
見たことない桃色の魔力を噴き出しながら秋菜さんが高まっている。
背に腹は代えられん。
「よし、みんな……やれることをやって、世界でも救おっか」
そして、俺達は動き出した。俺達の世界を救うために。
「市民の皆さんは早くこちらの方へと避難を!」
「モンスターが接近中! 冒険者チーム対応求む!」
「自衛隊とチームモノノフの第一がこちらに向かっています! 皆さん、安心してください」
ダンジョン庁へ寄り道をして御剣学園へ向かう途中、俺は街を見下ろす。
大発生による混乱を警察と自衛隊、冒険者協会が協力して収めようとしている。
対応の早さは恐らく今までの比ではないだろう。
これも御剣大発生のお陰だと思えば、冬輝も報われるだろうか。
出来るだけのことはした。あとは、みんなを信じるしかない。
俺は、御剣学園に辿り着き要件を済ますと、目的地へ向けて跳ね続けた。
チャラ男2を踏み、お嬢様を無視し、進み続けた。
学内では生徒たちが抵抗を見せている為、モンスターも自由に暴れられているわけではなさそうだ。流石、御剣。
そして、俺は再びあの場所に辿り着く。
御魂公園。冬輝が眠るあの場所に。
そこでは、姉さんと三条さん、そして、神辺先輩達が理々達モンスターと冒険者の混成チームと戦っていた。
理々は俺を見ると嬉しそうに微笑む。
「夏輝、早かったね♪ 他のところの大発生は大丈夫なの?」
理々が笑いながら聞いてくる。
「大丈夫だ。全部任せとけ」
「夏輝」
「姉さん、ちょっとだけ理々と話させてくれないかな?」
「……分かったわ」
姉さんたちが動き出すと理々に魅了された冒険者達も動き出す。
よく見れば、フェッチーズの皆さんがいる。ただ、手の不知火唯火さんだけいない。ということは、やはり男の方が魅了が効くという事だろう。宇治土公さんが狂信者化しているのは、まあ、そういうことだろう。
「春菜には指一本触れさせなぃいいいいい!」
「その娘の内臓、ほしいいいいいいい!」
三条さん、対、宇治土公さん、姉を巡るバトル、ファイッ!
にしても、姉さんたちが動いて、そっちにつられてみんな動いた、という事は、魅了された奴らは興奮状態で女性を追おうと動いているのかもしれないな。
「更科夏輝、気を付け給えよ。あの娘の魔力……」
「って、神辺先輩あんたこっちにいるんかい!?」
「当たり前だろう。勿論。あっちも興味深いが。何よりもこっちだ。今までにない魔力が視えるんだよ。実に、変だ!」
「ねえ、夏輝。その人はだあれ? もう! すぐ女の人引き付けちゃうんだから!」
理々が可愛らしく頬を膨らませる。
勿論、かわいい。小さい頃からずっとそう思ってた。だけど、
「今の方がかわいくない。俺にとっては」
「え……?」
理々の瞳が揺れる。
俺の服の裾を持っていた神辺先輩が強く引く。
いつやるの? 今でしょ!
「理々! 助けに来たぞ!」
「え……え……?」
「MINE送ったろ。『俺にまた飯作ってくれません?』って。お前の大好きな『勇者候補の嫁候補』の台詞だ。この台詞は……」
「ヒロインが……困っていた時に、ヒーローが助けてくれる時の、台詞……」
「返信がなかった。どう返すべきか悩んでいたのか? それとも」
俺は俺でしかない。だから、理々の心の中までは分からない。
だから、俺は、俺の中の理々、誰にでも優しく微笑んで誰にも迷惑を掛けたくない俺の知ってる、俺の大好きな理々の心の中を勝手に想像する。
「お前、さっき言ったな。テーブル一杯の朝食作って待ってるって! 第一話のヒーローの台詞に繋がるワードだ。助けてほしいんだな、でも、言えないんだな」
理々が涙を零す。あの涙は本物だ。俺はそう信じてる。
「夏輝……私、変なの……私ね、幸せの絶頂、その瞬間にこわしちゃうのが快感なの……」
理々は涙もぬぐわずにこっちを見つめる。鼻水が垂れている。
そんな理々を見るのはいつぶりだろうか。
「おか、おかしいでしょ。変でしょ……分かってる! 自分でも分かってるの! でも、怖いの。幸せになるのが……」
理々が涙をボロボロ零しながら崩れ落ちる。
「幸せ恐怖症ってやつかも知れないね……」
「幸せ恐怖症?」
「その名の通りさ、幸せを望みながらもそれを何かで失うのが怖くて自分で壊してしまう。不幸な経験をした人間がこれ以上傷つかないようにと予防線を張るのさ。自分を自分で不幸にして『ああ、やっぱり私は不幸でいるのが一番なんだ』って」
神辺先輩はそこで言葉を区切ると、キッと理々を睨みつける。
「分かる! 分かります! 今まで重ねてきた時間が一瞬で壊される……理不尽に。なら、もう、いっそ自分で壊しちゃえって言うんです。わたしの頭の中で声が……そっちのほうが楽だよって」
理々が頭を抱えながら言葉を零していく。
神辺先輩はその姿に視線を外さない。
いや、その奥にある何かを睨みつけているように見える。
「そういうこともあるだろうね。ただ、ここまでするのは異常だ」
神辺先輩の一言が理々を貫く。理々は諦めたように笑う。
「それに、どうにも奇妙な魔力が混じっているね」
俺も気づいていた。
俺は理々のことを知っている。だから、分かる。
少なくとも、あの事件までは理々はそんな素振りはなかった。
何故、理々は四方山に来た? あれだけ行きたがっていた御剣を諦めて。
冬輝がいなくなったから? 俺が行かなかったから?
そこに少しの喜びはあった。でも、違和感もあった。
あの事件の日、何かがあったんだ。
そして、思い出した。あの日も嗅いだ。この甘い匂いを。
神辺先輩と理々のやりとりの間に『カゲロウ』に変態し死角に回っていた俺は、理々の息を呑む瞬間を見逃さない。
「【変態】」
俺は脚を【変態】させ、一瞬で理々に近づき、なんとか右手の指一本だけ触る。
けど、それだけでも十分だ。
お前ならなんとかするだろ、冬輝!
「理々! 俺と冬輝を信じろ!」
冬輝の【変態】を発動させ、理々の魔力に干渉する。
理々の中で流れる異質な魔力を追い出すように動かす。
「出てけよ! もうバレてんだよ! この、悪魔!!!」
外に出ていく魔力が俺を吹っ飛ばす。
ただ、俺の目論見通り、理々の中には戻れないのか、ゆらゆらと匂う魔力を漂わせながら、いや、その匂いが、魔力自体が、煙のようなものになっている。そして、その煙はいつの間にか置かれていた一つの人形に吸い込まれていく。
『うふふフフフ! あハハッハア! そこのアナタのその眼、素敵ネ。女じゃなければ、配下にしてあげたかったノニ』
人形が笑っている。小さな人形だ。だけど、こんな異質で異常な魔力、俺は……。
「そいつは残念。で、そんな偉そうな君は何処の何方かな」
『アタシの名はヴィー。魅魔王ヴィー』
おいおい、魔王だって。ほんとにいるんだね。
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